「手取りを増やす」動画に高評価集まる
「ネットのどぶ板ですね」
比例代表の得票数が前回よりも約360万票増えて、名簿が足りなくなる事態となった国民民主党。
玉木代表は、当確の候補の花付けを行った先月28日未明の会見で、ネット戦略の強化が得票に結びついた実感があると語りました。
国民民主党 玉木代表会見
「小さな政党は圧倒的に地上波や新聞で取り上げられる機会はどうしても少なくなってしまう。(ネットの発信は)当時はバカにされましたけど、結果として早く始めて常日頃からの発信を怠らなかったことが選挙になって花開いたのかなと。ネットだけじゃだめでリアルだけじゃだめで、その組み合わせの中で支持が広がっていったと実感しています」
特徴的だったのは、「手取りを増やす」というキャッチフレーズを前面に押し出した動画。
YouTubeの公式チャンネルで公示前の先月9日に公開し、約1400万回再生されました。
先月1日から選挙戦最終日までに各政党の公式チャンネルで公開された動画に寄せられた高評価の数を集計したところ、国民民主党の動画には合わせて45万の高評価が寄せられていました。
自民党の動画では2000余り、立憲民主党の動画では1万9000ほどで、比較的多くの高評価が集まっていました。
ほかにも、玉木代表が自身のYouTubeチャンネルで遊説先のホテルからライブ配信を行ったほか、党のチャンネルでは動画の再生回数の目標を設定して、達成するアイデアを募集したり、切り抜き動画のやり方とともに投稿のしかたを説明したりするなど、視聴者を巻き込んだ発信を行いました。
こうした発信が、特に若い世代の関心を集めていた可能性がデータからみえてきました。
衆議院選挙の公示日、玉木代表が第一声の演説を行った神戸市・JR垂水駅前にどんな年代の人が集まっていたのかを、携帯電話の位置情報から分析しました。
同意を得たユーザーのスマホアプリからのみ収集したデータを分析したところ、演説会場に15分以上滞在した人の年代では、20代が25%を占め、ふだんの同じ時間帯の9%に比べて大幅に増えていました。
最終日のJR東京駅前で行った街頭演説に集まった人の分析でも、20代の割合がふだんより増えていたことが分かりました。
そして、動画などで全面に打ち出していた「手取りを増やす」という訴えが、実際に若い世代の関心を集めていたこともデータから見えてきました。
各党の公約に含まれるキーワードをどの世代がネットで検索していたか分析すると、国民民主党が訴えていた「手取り」や「賃上げ」といった言葉は20代から40代の若い世代が多く検索していたことが分かりました。
一方、「裏金問題」や「政党交付金」など政治とカネに関する言葉は60代以上の人が多く検索していました。
再生回数押し上げたネット広告 使い方がカギ?
今回の選挙期間中、各政党のYouTube動画の1日当たりの再生回数は9つの党合わせて約1000万回に上っていました。これは2年前の参議院選挙の期間中の1日当たりの再生回数の約3倍に上っています。
各党ともネット動画に力を入れていて、例えば自民党は、「ルールを守る」「国民を守る」という姿勢を示した動画を発信。
立憲民主党は「政権交代こそ、最大の政治改革」と訴えた動画を発信していて、ともに2000万回以上再生されています。
こうした再生回数が多い動画の中には、YouTubeやXの有料広告など、ネット上の動画広告としても配信されているものもありました。
さまざまな規制がある選挙運動、実はこうしたネットの有料広告は、「選挙運動」として出すことは禁じられています。
ただ、政党側は知名度を上げるために行う「政治活動」と位置づけて選挙期間中も出している現状があります。
ネット広告が活用されている背景にあるのが、ターゲティングという仕組みです。
政党が特定の地域や年代などに絞って支持を拡大したいと考えた場合には、その条件に合ったユーザーをねらって広告を配信することができ、費用対効果が高いとされているのです。
政治広告の代理店業務を行う会社の代表で、選挙プランナーの松田馨さんは、再生回数を押し上げた要因にネット上の動画広告があるとしたうえで、ネット広告ならではの特性を有効に使った政党とそうではない政党で明暗が分かれたと指摘しています。
ダイアログ代表取締役 松田馨さん
「自民党、立憲民主党、日本維新の会などは従来のテレビCMのようなイメージで、各党党首が出てきて政策やメッセージを訴えるキービジュアルのような動画になっていました。一方で、国民民主党はおそらくターゲットを絞ってそこに効果があると思われる動画を出していった結果、単純な再生回数だけではなく高評価の反応があったのではないかと思います」
ネット戦略が議席を左右!?
こうした政党のネット戦略が、実際の選挙結果にどこまで影響しているのか。
選挙にまつわるデータ分析の専門家で、ことし7月に行われた東京都知事選に関する調査を行ったJX通信社の米重克洋代表は、東京都知事選をきっかけにネット戦略の選挙への影響が注目されるようになっていると話しています。
都知事選で2位となった石丸伸二氏は、ネット動画でのライブ配信や切り抜き動画などの広がりによって知名度を伸ばし、特に都市部での得票が伸びていました。
都市部では単身世帯や核家族が多く、地域のコミュニティーでの情報交換よりもネットやSNSで政治や社会の情報を得る傾向があると米重代表は話しています。
さらに調査では、政治や社会の情報源としてYouTubeを使っていると答えた人では、テレビや新聞を使っていると答えた人と比べて、投票に行こうとする意欲が高い傾向もみられたということで、政党のネット戦略がより広がれば選挙結果にもたらす影響がより大きくなっていくのではと話しています。
JX通信社 米重克洋代表
「ネット戦略が実際の選挙結果に大きく影響するようになってきていると感じていて、ネットやYouTubeでの検索といったデータから、どの政党に勢いがあるのかを、ある程度事前につかむことができるようになってきています。これまでの選挙運動ではビラや街頭演説が用いられていますが、ターゲットを絞って届けたいメッセージを届けるにはデジタルの手法が向いていますので、今後利用が広がっていくと思います」
一方で、私たち有権者がSNSやネット動画から情報を得るにあたっては、その情報が偏っていないか注意する必要があると話しています。
米重代表
「SNSや動画サイトには『レコメンデーション』という仕組みがあり、一度政党の動画をみると、次々に同じ政党の動画がおすすめされて表示されることがあります。
これは政治に限ったことではなく、どんなテーマの動画でもあることで、みずからの関心に最適化されるものなので、ことさら避ける必要はありませんが、選挙の投票先の参考にしようというときには、積極的にほかの政党の情報も得る意識が大切で、おすすめされた動画を見ていくだけだと、結果的に自分が望むような最適な選択につながらない可能性があります」
共通の支持コメントも
今回の選挙戦で、玉木代表は石丸氏のネット戦略を参考にしたと会見などで語っていて、ライブ動画などの発信を盛んに行っていました。
ことし5月以降、各政党のYouTube動画にコメントを書き込んだアカウントを集計すると、国民民主党の動画にはおよそ1万1000のアカウントが書き込んでいましたが、このうち1割にあたるおよそ1500のアカウントが石丸氏の動画にもコメントを書き込んでいて、ほかの政党を大きく上回っていました。
共通して書き込んでいたユーザーのコメントを集計すると、「素晴らしい」「面白い」などポジティブな言葉の割合が高いことも分かり、石丸氏と国民民主党の動画を視聴し支持していた層が一部重なっていた可能性もうかがえます。
“費用対効果が高い”動画広告 懸念点も
今回、活用されたネットの有料広告。
政党側は知名度を上げるために行う「政治活動」と位置づけて出していますが、この「政治活動」には、金額の上限はもうけられていません。
こうしたネットの動画広告をYouTube上で配信するにはどれぐらいの費用がかかるのか。
選挙プランナーの松田さんは、1再生あたりの単価は地域やタイミングによって一概に言えないとしながらも、次のように話しました。
松田さん
「1再生あたり5円ぐらいから20円ぐらいまでの一定の幅の中で決まってきます。そこに動画の制作も依頼するのであればその費用もかかります。今回ネット広告に1億円以上使っていた党もあると考えてもおかしくないと思います。
実際に広告を出す場合は、例えば100万円という形で予算を先に決めて、その中で再生された回数に伴って予算が消化されていって、なくなったらおしまいという形になります。従来の新聞折り込みやポスティングといったものは実際に何人が見てくれたのか把握ができませんでしたが、動画広告に関しては一定再生されて初めて費用が発生するということになるので費用対効果が高いです」
松田さんは、こうしたネット広告はこれまで政治に興味のなかった人たちが政治に触れるきっかけになるとも指摘したうえで、有料広告への偏重には懸念もあると指摘します。
「資金力のある政党が大量に広告を出すことができるということになってくると、資金のある方が有利という形になりますし、動画の内容を短く、わかりやすいフレーズでつくると一部事実誤認や偽の情報として切り取られて拡散するという問題も出てくることが懸念されます」
(機動展開プロジェクト 斉藤直哉・金澤志江/メディアイノベーションセンター吉水優里子)
サタデーウオッチ9(11月2日放送)
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