プロ野球で最後の「松坂世代」だったソフトバンクの和田毅投手(43)が引退した。「平成の怪物」と呼ばれ、甲子園やプロ球界を席巻した松坂大輔氏(44)と同じ1980年度生まれ。優秀な選手を輩出してきた学年だが、同じくらい印象的な「世代」は今後も生まれるだろうか。(西田直晃)

◆「松坂世代」と言えば広く理解された

日本代表チームに選ばれ、言葉を交わす和田毅投手と松坂大輔投手=2003年

 「常に僕たちの太陽と言いますか、トップだった。僕で松坂世代もついに終わってしまう」  引退会見のさなか、松坂氏への思いをこう語った和田投手。2人は米大リーグ(MLB)でもプレーし、日本球界のソフトバンク、西武のエースとしてもしのぎを削った。ともに日米通算160勝を超えている。

引退したソフトバンク・和田毅投手=2023年6月

 1998年夏の甲子園。準々決勝PL学園戦で延長17回を投げ抜き、決勝では無安打無得点試合を達成した松坂氏。同学年の有名選手は、巨人を含む複数球団で活躍した杉内俊哉氏や村田修一氏、阪神の新監督に就任した藤川球児氏ら枚挙にいとまがない。松坂氏の背中を追いながら高校時代に頭角を現し、引退後は指導者や解説者の道を歩んでいる。  アマ球界の選手に与えた影響も大きかった。東京都江東区出身の松坂氏と地元が近く、小中学校時代に何度も対戦した芦川武弘さん(44)は「高校、大学、社会人と野球を続けていく中、実力で離されないように努力した。松坂世代と言えば、一般の人でもすぐに理解してもらえるのがうれしい」と語る。

◆「群を抜くスター」と切磋琢磨するライバルたち

 「世代」が脚光を浴びた例では、1988年度生まれの「ハンカチ世代」もある。2006年夏の甲子園決勝で、田中将大投手(現楽天)と規定の延長15回を投げ合い、再試合も完投した斎藤佑樹氏の愛称から名付けられた。この世代も巨人の坂本勇人選手、MLBで活躍している前田健太投手らスター選手がめじろ押しだ。

引退したソフトバンク・和田毅投手=2023年6月

 スポーツライターの中島大輔氏は「群を抜くスターがいれば、他の選手も『あいつに勝ちたい』と競い合うことで、同世代の選手全体の成長を促す構図が生まれていく」と説明し、「報じる側からしても、ライバル同士の切磋琢磨(せっさたくま)という『物語』は描きやすかったのだろう」と指摘する。

◆「大谷世代」「佐々木世代」…さぁ何年生まれでしょう

 ただ、その後、特定の「世代」が浸透してきたかは疑問符が付く。強いて言うなら、ドジャースの大谷翔平選手をはじめ、米国でプレーする鈴木誠也選手、藤浪晋太郎投手らがいる94年度生まれの「大谷世代」か。  2001年度生まれには、「令和の怪物」と呼ばれるロッテの佐々木朗希投手がいるが、「佐々木世代」の呼称はピンとこない。佐々木投手は、高校3年夏の地方大会決勝で故障回避のため登板せず、甲子園出場経験はない。「怪物」でも松坂氏と違い、同学年との激闘のイメージは薄い。

ダイエー時代の和田毅投手=2004年

 中島氏は「投手の場合、登板過多を防ぐために球数制限が導入され、分業制が主流になった。エースによる連戦の先発完投を目にする機会はほとんどなくなった。高校卒業後の進路を重視する意識が指導者と選手の双方に根付いてきた」と話す。疲労軽減のため、延長戦のイニングは短くなり、試合時間を短くするタイブレークも導入された。  結果として、松坂氏や斎藤氏がみせたようなタフネスに基づくドラマは、生まれにくくなっているのかもしれない。

◆「年次の持つ役割は終わりに近づいている」

 落語家の桂福丸氏は「同世代の競争という感覚が時代に合わないのでは」と投げかける。  「一般社会では中途採用や外国人採用が増え、同期で誰が一番偉くなるかという意識はすでに薄い。年次の持つ役割は終わりに近づいている。大谷選手や将棋の藤井聡太七冠に沸くファンを見ても、世代のくくりではなく、個人それ自体に関心が向く時代だ」 

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