保護者などによる虐待は子どもの心身に深刻な影響をもたらすとされ、心の傷であるトラウマは適切な治療を受けないまま放置されると長期的に影響が残り、人間関係のつまづきや自己否定、感情のコントロールが難しいなどの問題が起きることがあると指摘されています。
虐待のトラウマ影響続く女性
首都圏に住む30歳の女性は、物心がついたころから母親から言葉の暴力や殴る蹴るなどの身体的な虐待を受けてきたといいます。
暴力が激しくなった中学生の頃には、精神的に不安定になり授業中に突然涙が出ることもあったといいますが、教師からどうしたのか尋ねられたことはなかったといいます。
女性は「我慢してやり過ごせば命までは取られないという気持ちで毎日必死だった。家を出ればバラ色の人生があると思っていたので、早く大人になって家を出たいと思っていた」と当時を振り返りました。
大学2年生で1人暮らしを始め、母親の暴力から逃れましたが、思わぬ場面で心身の異変が現れ始めたといいます。
就職した23歳のころ、職場で涙が止まらなくなる症状が出たり、人間関係につまづいたりして、新卒で入社した会社を半年で退職し、その後も仕事を転々としました。
26歳になったある日、ベッドから起き上がれなくなって精神科を受診したところ「適応障害」と診断され、治療やカウンセリングを受ける中で「虐待によるトラウマが影響している」と指摘されました。
うつ病も発症し、現在も不眠などに悩むほか、「死にたい」という気持ちが強くなることもあるといいます。
女性は、「虐待の後遺症があるということを、もっと早く知りたかった。子どもの頃にカウンセリングや精神的なケアが身近にあれば大人になってここまで悪化することはなかったと思うので、早いうちにケアが受けられる体制があればよかったと思う。トラウマを抱えた子どものケアが一般的に行われる社会になってほしいです」と話していました。
トラウマケアの支援体制に地域差
児童相談所が対応した子どもの虐待に関する相談は令和4年度は21万4800件余りで増加が続き、トラウマを抱えた子どもが増えていると予想される一方で、児童相談所でトラウマをケアする支援体制に地域差があるとの課題があがっています。
そのため、こども家庭庁は全国の児童相談所を対象に先月からアンケート調査を始め、子どものトラウマ症状をどのような方法で評価しているのかや、児童心理士が面談するなどしたうちの何割の子どもにトラウマの評価を行ったか、それに子どものトラウマのケアを進めるうえでの課題などについて、回答を求めるということです。
こども家庭庁は今年度中に調査結果をまとめ、児童相談所の職員を中心に、子どもに関わる職業の大人がトラウマを抱えた子どもを早期に見つけて適切な支援につなげるための体制作りを進めるとしています。
専門家「普及啓発含んだ施策を」
「子どもの虐待防止センター」の児童精神科医でトラウマケアに詳しい山口有紗さんは、虐待を受けた子どものトラウマのケアについて、「子どもの時代の虐待などの逆境体験は、20年後、30年後、40年後にもその人の心や体、社会的な健康にずっと影響を与え続ける可能性があるといわれている。トラウマケアは今気がついて今できることをできるだけ始めることが大事だ」と指摘しています。
その上で、「トラウマのケアは専門的なケアも必要だが、日常のなかでトラウマがどのような影響を及ぼすのかということを、児童相談所やこども自身、周りの学校といった、すべての人が知っていけるような、普及啓発も含んだ施策を講じていくことが必要だ」と話していました。
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