人工知能(AI)を使って被爆者と「対話」できる「被爆証言応答装置」の製作が広島市で始まっている。5日には中区の平和記念資料館で、被爆体験証言講話の収録があった。
この日は山本定男さん(93)が、市の募集で集まった小学生~高校生13人を前に講話し、その様子が動画で収録された。被爆当時、山本さんは県立広島第二中学校の2年生だった。爆心地から約2.5キロの東練兵場で、芋畑の草取りをしていた時に被爆した。
「巨大な岩石が一瞬で砕け散るような『ガーン』という音と同時に、強烈な熱風で吹き飛ばされた」。地図や絵などと共に、当時を振り返った。
装置の製作に協力した理由について、山本さんは取材に「証言ができる90歳以上の被爆者はほとんどいない。ずっと伝えられることはいいことだ」と話す。すでに被爆者から聞き取った話を伝える「被爆体験伝承者」「家族伝承者」の仕組みもあるが、「いろいろな手段で残しておくことで、被爆者の生の声を伝えられるチャンスが増える」と捉えている。
装置は、被爆者の高齢化を背景に市が進める新たな記憶の継承の取り組みだ。利用者は、まず装置に収録された講話を聞いた後、口頭で質問を投げかけることができる。質問はAIによって瞬時に分析され、事前に用意された証言動画から適切な回答を選び出して再生する仕組みだ。
製作に当たっては、5人の被爆者の参加が決まっている。山本さんの他に笠岡貞江さん、切明千枝子さん、内藤愼吾さん、八幡照子さんが協力する予定だ。
5日には、講話を聞いた参加者らが山本さんへの質問を考える時間もあった。舟入高校2年生の中野愛実さん(17)は、被爆当時の状況や、日本の戦争加害について質問を投げかけた。市に提出する手元のシートには、「(原爆で)一瞬で変わった街を見てどう感じたか」「核抑止論についてどう思うか」などびっしりと書き込んでいた。
これまで様々な証言を聞いてきたが、質疑応答が難しくなるなど、被爆者の高齢化を感じてきたという。装置については、事前に想定した質問にしか回答できないという限界を感じる一方で、「実際に被爆を経験した人の言葉は重い。証言を聞く機会が残るのは大切だと思う」と話した。(魚住あかり)
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