世界最高水準の研究力を目指し、巨額の資金を投じる大学を国が認定する「国際卓越研究大学」制度の是非を考える緊急シンポジウムが29日、東京大学本郷キャンパス(東京都文京区)で開かれた。大学運営への政財界の介入を危ぶむ大学教員らの横断ネットワークが主催。「学問の自由は基本的人権の一部」とし、政財界の思惑に縛られない大学政策の重要性を訴えた。

◆財界人など「学外委員」の権限強化

 「『稼げる大学』はどこへ行く?」と題したシンポジウムは、卓越大の運営方針を決める際に学外委員の賛成を要件とする文部科学省の方針が明らかになったのを受けて開かれた。昨年末成立した改正国立大学法人法は、大規模な国立大学に同様の「運営方針会議」の設置を義務付けている。他の大学でも、財界人が想定される学外委員の権限強化が懸念されている。

大学運営のあり方を考えるシンポジウム=東京都内で

 大学教員や市民ら約60人が参加した会場では、パネリストで東大の本田由紀教授が、先進国では異例なほど高等教育の私費負担が大きい教育行政の貧困ぶりを指摘。2004年に国立大学を法人化して以来、運営費交付金は段階的に削減され、国際的な研究力水準も低下しているという。「研究は富士山型の広い裾野があってこそ発展する。裾野が削られては求められた研究もできない。日本では、ただ学問が滅んでいるだけ」と批判した。

◆予算奪い合いが激化、不祥事も

 京都薬科大の田中智之教授も、研究予算の「選択と集中」により大きく予算を削られた地方大学では、自ら「寄付」して自腹で研究を続ける研究者もいると指摘。予算獲得競争の激化により、目先の成果を急ぎ、研究成果をゆがめる不祥事も起きているという。巨額の予算を投じた研究についても「期待されたイノベーションは創出されたのか。政策のフィードバックが行われていない」と危ぶむ。  横断ネットワークの呼びかけ人の一人で、京大の駒込武教授は「学問の自由は、個人が好きに研究する自由ではない。学術界全体の問題として、市民社会と連携して考えたい」と訴えた。(中山洋子) 

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