能登半島地震の物資支援の方法が、交流サイト(SNS)の活用で様変わりしつつある。9月の記録的な豪雨を受けて、金沢市のインフルエンサーが「清掃用品が必要」とSNSで呼びかけたところ、世界中から応じた人がインターネットで購入、北陸の支援団体が連携して現地に運んだ。民間の力でいち早くニーズをつかみ、多様な物資をそろえる点で行政ができない支援をしている。(沢井秀和)

◆「おいしい金沢」が投稿 翌日から続々と

 「大きな水害に遭った能登への支援をお願いします。水害からの復旧のために清掃用品が必要です」。9万人のフォロワーがいるグルメアカウント「おいしい金沢」は9月21日夕にSNSに投稿。併せて具体的な品を「アマゾンのほしい物リスト」としてデッキブラシやスコップ、長靴、防塵(ぼうじん)マスクなどを挙げた。

「おいしい金沢」のX(旧Twitter)での投稿のスクリーンショット

 すると金沢市内にある事務所には翌日から荷物が続々と届き始めた。トラックが6~8回到着する日もあり、これまで約7000点、1700万円相当の物資が届いた。なかには61台の送風機(2万円相当)、209台の送風扇(9000円相当)など大型物資もあり、運送会社の倉庫に預かってもらった。

◆支援団体がバトンをつないだ

 予想を超えた大量の物資をいかに早く届けるか。おいしい金沢は関係者2人を頼った。物資を募り、被災者に提供しているみんなの畑の会の西田敏明代表理事(78)と、石川県穴水町を拠点に活動をしている能登ネスト管理代表の東哲也(活動名ピカリン)さん(53)だ。2人の協力で現場に運べる支援団体やボランティアをSNSのグループチャットで募り、物資が届くたびにすぐに運んでもらった。

浸水した施設の被害部分を乾燥させるのに使われる多くの送風扇=10月23日、石川県輪島市内で(ピカリンさん提供)

 こうしてバトンをつなぐように複数の支援団体や拠点が結ばれた結果、9月下旬には一つのグループに集約されて「のと支援団体ネット」が誕生。現在は38団体が登録し、各地から寄せられた物資をはじめ、現場で必要としている物資の情報を共有している。寄せられた送風機や送風扇は、水害が起きたほかの被災地に送る「恩送り」をするために管理している。炊き出しができる人を募り、チャリティーに出演できる音楽家らの紹介など支援内容も広がっている。

◆「心を物資に乗せて送っている」

 西田さんは「最も必要な物を最も必要とする現場に届ける仕組みができつつある」と説明。東さんは「行政は情報、物資を流すことができず“動脈硬化”を起こしている。住民とともに活動している支援団体は、どこに何をどれだけ持って行ったらいいかを知っている」と指摘する。

日本をはじめ世界から届き、支援団体によって管理されている送風機や送風扇。新たな水害が起きた際は、「恩送り」することになっている=10月15日、石川県輪島市にある支援団体の物資倉庫で(ピカリンさん提供)

 おいしい金沢の担当者は、ある被災者が「被害が大きく、どうしたらいいのか分からなかった。物資をもらったことで、背中を押された」と涙ながらに話したことが忘れられないという。「私たちは物を送り付けるのでなく、支援してくれた方の心を物資に乗せて送っている」

◆2割は羽生結弦さんファンか 海外からも

 「おいしい金沢」の呼びかけに応じた内の2割は、アイコンなどからプロフィギュアスケーターの羽生結弦さんのファンとみられる。その中には中国や台湾、シンガポールや米国、カナダなど海外からも。羽生さんは能登半島地震以後から支援を続けており、9月中旬に金沢市であったチャリティー演技会に出演。能登への思いを継続して発信していることがファンの心に響いたようだ。 

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