◆罷免率10%以上が6人中4人
最高裁大法廷(一部画像処理)
国民審査は憲法に基づき、最高裁裁判官が職務にふさわしいか否かを有権者が投票する制度。国民が直接適否を決める制度は世界でも珍しい。 最高裁裁判官は任命後、最初の衆院選を迎えたときに審査を受ける。10年が経過すると、直近の衆院選のときに再審査される。罷免したい裁判官の欄に✕を付け、空欄なら信任、✕以外を記入すれば無効となる。✕の数が有効投票の過半数になれば罷免されるが、過去に罷免された裁判官はいない。◆「罷免率」最高は今崎幸彦長官が11.46%
今回対象となった6人の罷免率は、今崎幸彦長官が11.46%で最多。尾島明氏が11.00%、宮川美津子氏が10.51%、石兼公博氏が10.00%と続いた。8月に就任した平木正洋氏と9月就任の中村慎氏は、いずれも9%台だった。投票率は前回より2.05ポイント減の53.64%だったが、個別の罷免率が10%以上になったのは、最高10.29%だった2000年以来。近年は7~8%程度が多かった。最高裁裁判官国民審査に投票する有権者=10月27日、東京都港区で(川上智世撮影)
「制度の形骸化、国民の関心の低さが指摘されてきただけに驚き、感激した」。対象裁判官の過去の判例などをまとめてウェブサイトで公開していた「自由人権協会」の古本晴英弁護士は語る。有権者が積極的に参加したともいえるからだ。 前回2021年は、夫婦別姓を認めない法規定を合憲と判断した裁判官の罷免を呼びかけるグループがインターネットで発信し、名指しされた裁判官に×が多くなる傾向があった。今回は特定テーマでの目立った運動はなかったが、LGBTQ(性的少数者)や原発避難者に関わる過去の訴訟での判断を巡り、個々に罷免を訴える投稿が見られた。関与した判決が多い人ほど✕が多かった点から、古本氏は「有権者が事前にきちんと判例などを調べて投票したことが分かる」と話す。◆「いい意味での圧力になる」
制度に詳しい明治大の西川伸一教授は「従来の罷免運動と違い、インフルエンサーなどの発信が浮動票に影響した可能性がある。交流サイト(SNS)特有の現象で、一部メディアによる特設サイトの情報提供とも相乗的にうまくかみ合った」と分析。また、日本初の女性弁護士・裁判官が主人公のNHK連続テレビ小説「虎に翼」のヒットに触れ、「司法への関心を呼んだのかも」とみる。 国民審査の情報発信に取り組んできた「日本民主法律家協会」の大山勇一弁護士は「最高裁に対し、民意や世情から離れた司法判断は許されないという、いい意味での圧力になる」と期待する。最高裁が開設したXのアカウント
ただ、活性化に向けた課題は多い。衆院選と併せて実施するため、就任間もない判事を判断材料が少ないまま審査することも珍しくないが、見直すには憲法改正が必要。先の西川教授は、国民審査法の改正で✕以外の選択肢を増やすなど「投票実感」を高める仕組みのほか、「総務省をはじめ行政が国民審査を刺し身のツマのように扱うのではなく、しっかりと国民に制度を周知することが必要」と強調する。今回も投票啓発ポスターなどで、衆院選が大々的にアピールされる一方、国民審査は付随的な扱いになりがちだった。 最高裁は国民審査後の10月30日、X(旧ツイッター)のアカウントを開設した。西川教授は「最高裁も受け身にならず、時代に合った方法で、日頃から積極的に裁判官の情報を発信してほしい」と注文する。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。