戸籍上同性のカップルが結婚できない民法などの規定を「違憲」とした30日の東京高裁判決は、民法の制定過程を丁寧に追い、国側が主張する「子を産み育てる男女の法的保護」は「婚姻の不可欠の目的ではない」とした。その上で、自然生殖の可能性がないことを理由に、同性カップルに男女間と同様の婚姻の制度を設けないのは「合理的根拠のない差別的取り扱い」になるとの結論を導いた。(奥野斐)

同性婚を巡る東京第1次訴訟の控訴審判決後、東京高裁前でメッセージを掲げ喜ぶ原告ら

◆「婚姻の本質である夫婦の結束は生殖がなくとも可能」

 「画期的かつ、歴史的判決。婚姻制度の目的や意義を具体的に検討し、立法についても注文を付け、国会にきちんとやるよう明確に求めている」。弁護団の寺原真希子弁護士は判決を高く評価した。  被告の国側は、婚姻の目的を「男女が子を産み育てる関係を法的に保護するもの」と主張し、自然生殖の可能性がない同性カップルが婚姻する制度がないことは問題ないとしていた。  しかし、判決は、旧民法の制定時、生殖能力がないことを婚姻の無効原因にしようという意見があったが、そうした規定が設けられなかったことを指摘した。さらに、戦後の民法改正で同性婚は議論の対象外としつつ、婚姻の目的について「子どもの出生は婚姻に不可欠の目的ではない。婚姻の本質である夫婦の結束(固い結合)は生殖がなくとも可能」との学説を踏まえ、国の主張を退け、違憲の結論を導きだした。

同性婚を巡る東京第1次訴訟の控訴審判決後、東京高裁前でメッセージを掲げる原告ら

◆「婚姻制度は時代や社会によって一様ではない」

 慶応大の駒村圭吾教授(憲法学)は「婚姻の本質から生殖の問題を除いた点は注目だ」と語る。「次世代を確保する生殖の社会的機能は認め、同性婚が実現してもこの機能になんら影響せず、それを支えることすらあるとした点に踏み込んだ。緻密だ」と解説した。  また、判決は、同性カップルらを自治体が認める「パートナーシップ制度」の広がりや各種意識調査で同性婚への賛成割合が年々高まっている点などから「社会的受容度は高まっている」とした。早稲田大の釜野さおり教授(社会学)は「婚姻制度は時代や社会によって一様ではない。社会の変化や実態を踏まえた判決」と指摘する。  判決は同性婚を認める法制度について「国会の裁量」としつつ「個人の尊重や法の下の平等の原則に根付いた制度にする必要がある」と述べた。配偶者の相続権を例に挙げ、生殖可能性と無関係に配偶者に当然生じる権利を男女間の婚姻と異なる規律にするのは「憲法14条違反の問題が生じうる」と「警告」し、国会に速やかな対応を求めた。

同性婚訴訟の争点と各地の判断

◆「立法府はすぐに動くべきだ」

 しかし、国会の動きは鈍い。27日投開票の衆院選では、自民党以外の主要政党が公約で同性婚に触れ、躍進した立憲民主党などは同性婚導入を掲げているが、法整備への動きは見えない。国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)が29日に公表した日本政府への勧告を含む「最終見解」では同性婚も認めるよう求めた。  ただ、東京高裁判決が違憲としつつ賠償を認めない理由に、裁判所の判断が分かれ、最高裁の統一判断が示されていないことを理由に挙げたことに、駒村教授は懸念を示す。  「政府に最高裁判断まで猶予を与えているようにも見える。統一的判断が示されるまでもなく、これまでの判決は全て国会が何らかのアクションを起こすべきだと指摘しており、立法府はすぐに動くべきだ」

 同性カップルを巡る国内外の状況  海外では2001年のオランダを皮切りに、欧米を中心に37の国・地域で同性婚が認められている。国内では15年、東京都渋谷、世田谷両区で同性カップルらを自治体が認める「パートナーシップ制度」が導入された。公益社団法人「Marriage For All Japan―結婚の自由をすべての人に」によると、少なくとも470自治体が導入、約89%の人口が利用できる。法的効力はなく、配偶者としての財産相続権や親権などはない。



鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。