新しい環境で日々学びながら、のびのび生きよう。北の大地へ降り立ったのは、就活も終わった大学4年生の初夏。コロナ下で外出もままならない息苦しさから逃れたかった。
迎え入れてくれたのは、遠軽町白滝にあるじゃがいも農家だった。北海道の東部にあり、360度見渡す限り畑と山。「密」の「み」の字もない。
少し夜更かしをすると、辺りが明るくなり始め、窓を開ければ「ほーほけきょっ」と鳥のさえずりが朝の訪れを知らせてくれる。
家の前の畑ににょきにょきと顔を出したアスパラをトーストに乗せて朝ご飯。小川にもじゃもじゃと生えたクレソンで昼の天ぷら。胸が躍った。
ボランティアから記者の立場となり、2年ぶりに白滝を訪れた。
初任地の福岡での勤務を経て、4月に札幌へ赴任。お世話になったじゃがいも農家はずっと取材してみたい相手だった。
自分の幼い頃の写真を見ると、両手におにぎりを持って食べている。それほど、昔からおいしいものを食べるのが好きだ。食への興味がいつしか、生産現場への関心へと広がっていた。
ひさしぶりに話すと、学生時代は「へーおもしろい。そんな人がいるんですか」とただ感動していたことが、すべて取材対象になりうることに気付いた。
ある日の一言もそう。「道内各地の食材を使って、ビール造りをしている人がいるよ」
さっそく、その醸造家に会いに行く。
じゃがいもや樹液。麦酒と書くのに、麦だけでなく、「でんぷん質のもの」「甘いもの」「香りがあるもの」であればなんでも材料として使えることを知った。
鍋から立ち上る穀物の芳醇(ほうじゅん)な甘い香りに包まれながら、醸造家が語る。スキー選手の夢を絶たれ、どん底に追いやられた。でも、今は新たな夢を追いかけている。掲げるのは「北海道の全179市町村でビールを!」。
十材料十色。十人十色。私も負けじと全国47都道府県、ひいては世界中のおいしいものの作り手に話を聞いて回りたい。(鈴木優香)
- 鈴木記者が取材した農家民宿のストーリーはこちら
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