東北電力は29日、東日本大震災で大きな被害が出た女川原発2号機を再稼働した。原発の積極活用を掲げる政府方針の後押しとなった一方、13年ぶりの運転で長期停止に伴うトラブルへの懸念や、避難計画の不備など課題は山積みのまま。原発を使い続けるリスクはまったく解消されていない。

東北電力女川原発の防潮堤(2024年6月撮影)

 

女川原発と東日本大震災 宮城県女川(おながわ)町と石巻市に立地。2011年3月の東日本大震災時、全3基が稼働中だった。震度は6弱で地震の揺れの強さを表す加速度は約568ガル(1号機原子炉建屋2階)を観測。約13メートルの津波に襲われ、敷地の高さが約14.8メートルで約1メートル地盤沈下したため、津波より80センチ上回っただけだった。外部電源5回線のうち4回線を失ったほか、2号機では浸水で非常用ディーゼル発電機2基が停止し、原子炉建屋の壁に1000カ所以上のひび割れがあったが、福島第1原発のような事故は免れた。1号機は震災で停止して2018年に廃炉が決まった。東北電力は3号機(停止中)について再稼働を検討している。

◆東日本の原発の再稼働「大きな節目」

 「電気料金の東西格差や、経済成長機会の確保という観点から、東日本の原発再稼働は極めて重要。大きな節目になる」  武藤容治・経済産業相は29日の閣議後記者会見の冒頭で、そう強調した。

東北電力女川原発のフィルタ付き格納容器ベント装置(2024年6月撮影)

 原発の新規制基準下で再稼働したのはこれまで西日本の関西、四国、九州の3電力12基だった。東日本では女川2号機以外に、東京電力柏崎刈羽6、7号機(新潟県)と日本原子力発電東海第2(茨城県)の3基が新基準に適合とされたが、地元同意が取れなかったり、工事の遅れなどで再稼働のめどはたたない。

◆東北電力も懸念する「久しぶりの変化」

 政府の念願だった東日本での再稼働にこぎ着けたが、女川2号機はさまざまな課題を抱えている。  原子炉は13年以上使っておらず、長期停止による不具合や設備の劣化が懸念される。東北電さえも、9月に示した文書で「長期停止を経て、温度・圧力や配管内の液体・気体の流れ、振動などにより状態が久しぶりに変化することから、警報や不具合が発生する可能性がある」と認める。

◆事故発生なら半島の住民が孤立も

 避難計画の実効性にも疑問符が付く。牡鹿半島の中央付近に立地し、30キロ圏内には離島もある。地震や津波などが同時に起きて道路が寸断すると、住民が孤立し避難は困難だ。原子力規制委員会で議論している屋内退避のあり方についても中間のまとめは出されたが、結論は出ていない。  また、2号機の原子炉建屋内の使用済み核燃料プールは9月末時点で容量の8割ほどが埋まり、再稼働から4年程度で上限に達する見込み。敷地内に新たな貯蔵施設の建設を計画するが、工期に余裕はなく綱渡りだ。(荒井六貴、山下葉月) 

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