同性婚を認めない民法などの規定は憲法違反だとして、全国の同性カップルらが国を訴えた集団訴訟で、控訴審では2件目の判決が30日、東京高裁で言い渡される。弁護団には、同性愛者であることを公表し、約30年前に同性愛者の人権を巡る日本初の裁判を知る弁護士が加わっている。「時代を一歩先に進める判断を」と願う。(奥野斐)

◆やゆされた上に施設利用を拒否され

 「青少年の健全育成に正しいと言えない影響を与える」
 「国民、都民のコンセンサスを得られていると思わない。次回の施設利用は断りたい」  同性婚訴訟の弁護団の一人、永野靖弁護士(65)は、34年前の衝撃を忘れられない。

同性婚と社会の変化などについて話す永野靖弁護士=東京都新宿区で(川上智世撮影)

 1990年2月、永野さんら同性愛者団体のメンバーが東京都の施設「府中青年の家」を利用。他の団体から同性愛者をやゆする言葉や嫌がらせを受けた。対処を都側に求め、返ってきたのが、同性愛者への差別的な言葉と宿泊利用を拒否するとの回答だった。

◆勤めていた金融機関を辞めて司法の道へ

 永野さんは友人の中川重徳弁護士に相談。団体とメンバーは翌年、利用拒否は違法だとして、都に損害賠償を求める訴えを起こした。同性愛者の人権を巡る日本初の裁判とされる「府中青年の家事件」だ。  永野さんは裁判に背中を押され、勤めていた金融機関を辞め、弁護士を目指しながら裁判の行方を見守った。司法試験に向けて勉強中の1997年、東京高裁が利用拒否を「不当な差別的取り扱い」と認め、一審に続き都に賠償を命じた。都側は上告せず確定した。

◆声を上げる者が増え「理解は進んだ」

 「利用拒否はやむを得ないという意見もあった中で、それを否定し、人権問題との認識を広めた転換点となった裁判」と永野さん。「どれだけ多くの当事者が励まされ、生きる希望を与えられたか」。2000年に弁護士になり、性的少数者の困難を解消するための裁判に取り組んだ。  2019年に始まった同性婚訴訟では、府中青年の家事件の体験も法廷で語った。かつては「差別に遭っても仕方ないと、どこかあきらめていた」。しかし、声を上げる当事者が増え「行政が面と向かって差別していた時代から、社会の理解は格段に進んだ」と実感する。  ただ、同性婚の法制化のめどは立っていないのが現実。弁護士として東京高裁の法廷で聞く同性婚訴訟の控訴審判決に期待する。  「少数者の人権を守る司法の役割を果たし、転換点となる判断を示してほしい」

 府中青年の家事件 東京都の宿泊研修施設「府中青年の家」(閉所)の利用を拒否された同性愛者の団体「動くゲイとレズビアンの会」とメンバーが1991年に都を訴えた裁判。一、二審判決とも利用拒否は違法とし、都に賠償を命じた。1997年の二審東京高裁判決は「行政当局は同性愛者の権利、利益を十分に擁護することが要請されており、無関心や知識がないことは、公権力の行使に当たる者として許されない」と都の対応を厳しく批判。都が上告せず、確定した。

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◆東京高裁が「違憲」と判断するか注目

東京1次訴訟の地裁判決後、「婚姻の平等に前進!」と書かれた紙を掲げる原告ら=2022年11月30日

 同性婚訴訟は2019年から5地裁で計6件(東京は1次と2次)起こされ、これまで出た判決7件のうち6件が「違憲」「違憲状態」と判断した。控訴審初となった今年3月の札幌高裁判決は「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」と定めた憲法24条1項は「同性婚も保障する」との初判断を示した。30日の東京1次訴訟の東京高裁判決が札幌に続き、明確に違憲と判断するか注目される。  国内の同性カップルは、男女のカップルなら婚姻で得られる、財産の相続権や子どもの親権などの配偶者としての法的保障がない。

◆別制度では「差別の固定化につながる」

 2022年11月の東京1次訴訟の一審判決は「同性パートナーと家族になる法制度がないのは、人格的生存への重大な脅威、障害で違憲状態」と判断した。ただ、現行の婚姻の対象に同性カップルを含めるのか、婚姻に類した別制度をつくるのかは、立法裁量に委ねられるとした。  原告側は、別制度は婚姻の代わりにならないどころか「差別の固定化」につながるとして、婚姻の対象に含むよう主張している。  これまでの判決はいずれも国の立法不作為を否定し、賠償責任を認めておらず、原告側は控訴や上告をしている。(奥野斐) 

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