東京・明治神宮外苑地区(新宿区、港区)の再開発で、三井不動産などの事業者は28日、3メートル以上の樹木の伐採を始めると発表し、準備作業に着手した。  球場の建て替えや高層ビルの建設に伴い、619本の樹木を伐採する計画。環境悪化を懸念する専門家や周辺住民の批判がやまない中、工事は本格化し、1920年代に献木と勤労奉仕で整備された「百年の森」は大きく姿を変えることになる。(原田遼)

再開発が計画される外苑地区=9月9日、安江実撮影

 再開発は同社、明治神宮、伊藤忠商事、日本スポーツ振興センターの4者が実施。28.4ヘクタールの区域で神宮球場と秩父宮ラグビー場の位置を入れ替え、高層ビル3棟を新設する。全体完成は2036年を見込む。整備に伴い、現存する1904本の樹木のうち964本を保存、242本を移植し、1098本を新たに植える。聖徳記念絵画館に続く4列のイチョウ並木は保存される。  大量の樹木の伐採は22年、日本イコモス国内委員会の石川幹子理事が事業者が公表した資料と、現地の樹木を照らし合わせて判明した。都は23年2月に事業認可を出したものの住民からの批判を受け、同9月に事業者に樹木をできるだけ保全するよう要請。事業者は今月、都の審議会で当初より伐採本数を124本減らすなどした見直し案を報告し、受け入れられた。  小池百合子都知事は25日の記者会見で「都民の理解と共感が得られるように情報発信など、しっかり取り組んでほしい」と事業者に求めた。26日には市民ら約200人が伐採の反対を求めて周辺をパレードした。

 外苑再開発 秩父宮ラグビー場と神宮球場の位置を入れ替えて建て替え、高さ約190メートル、185メートル、80メートルの高層ビルなどを新築する。事業者は、明治神宮、日本スポーツ振興センター、伊藤忠商事、三井不動産。樹木伐採や住民への説明不足に批判が広がり、故坂本龍一氏ら文化人も声を上げた。昨年3月に着工したが、伐採直前の9月、都が樹木の保全策を再検討するよう要請。1年後の今年9月、伐採予定を743本から619本に減らす案を公表。都側も受け入れた。当初予定では2036年完了、総事業費は3490億円を見込んでいた。

◆伐採本数減「1年の空白、反対の空気しぼんだ」

 東京・明治神宮外苑地区の再開発では大量の樹木を伐採することに批判が集まってきた。当初、事業者が伐採に着手するとみられたのは2023年9月だったが、このころは国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関国際記念物遺跡会議(イコモス、本部・パリ)が計画の中止を求める緊急声明「ヘリテージ・アラート」を発出して国際問題になるなど、特に批判の声が強まっていた。  がん闘病の病床で反対を訴えた音楽家坂本龍一さん=23年3月に死去=の遺志を継ぎ、サザンオールスターズが再開発を憂える新曲を発表したのもこのころで、文化人らからの批判的な発言も目立っていた。  すると、東京都は事業者に樹木の伐採本数を減らす検討を行うよう要請。再開発は事実上ストップした。小池百合子知事はそれまで記者会見などで都の手続きの正当性を強調してきただけに周囲は驚いた。

小池百合子東京都知事

 事業者が検討結果を公表したのは都知事選後の今年9月。10月21日に東京都環境影響評価審議会に報告し審議会側も受け入れたことで伐採に向けた条件は整った。  伐採予定の木は743本から129本減ったが「枯れ木のため再開発と関係なく伐採する必要がある」として伐採対象から除外したり、樹木に一定のダメージを与えかねない「移植」に切り替えたりした木が多い。「緑を犠牲にして商業開発する構図は変わっていないが、1年の間が空いたことで反対の空気はすっかりしぼんでしまった」と見直しを求める住民の一人は話した。

◆なぜ切るの?再開発優先浮き彫り

 反対の声が相次ぐ明治神宮外苑の再開発。なぜ619本の樹木を伐採する必要があるのか。  樹木を伐採するのは、再開発のために新しい建物を建設したり、古い建物を解体したりする際に支障となるからだ。

明治神宮外苑地区のイチョウ並木=1月、佐藤哲紀撮影

 事業者は、支障となる木について「原則移植を検討する」としているが、移植は樹木へのダメージが大きく、樹木学者によると生育状況などによっては移植できないケースも多く、簡単ではない。  再開発の見直しを求める日本イコモス国内委員会は、神宮球場とラグビー場を入れ替えて建て替えることで再開発が大がかりになり、犠牲になる樹木が増えていると分析。現地で建て替えれば「伐採は2本にとどまる」とする試案を2022年4月に公表した。  だが、場所の入れ替えは、連鎖的に建て替えることで外苑の稼ぎ頭である球場やラグビー場の休業期間を無くし収入が途切れないようにする狙いがある。事業者は「現地建て替えでは5年は施設を利用できなくなる」と受け入れない考えを示した。  外苑のシンボルであるイチョウ並木は伐採を免れるが、工事によって生育を阻害するとの指摘がある。事業者が23年10月に行った調査でも128本のうち、4本が4段階の活力度で最低のD評価だった。事業者は「24年の調査では改善している」としているが、今回の見直しで隣接野球場との距離を8メートルから18メートルに拡大。今後についても「イチョウの健康調査を行い、結果を報告する」としている。 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。