恋愛をすれば、好きな人とキスをし、セックスをする-。それが「普通じゃん」「当たり前だよ」と思うかもしれない。でも、本当に「普通」で「当たり前」のことなのだろうか。一度、立ち止まって考えたい。  「体の関係を持てない相手よりは、大多数の恋愛ができる相手の方がよかったのかなと思って、別れました」。鈴木怜奈さん(20代、仮名)は恋愛感情が湧かないし、キスやセックスといった粘膜同士の接触がある行為もしたくない。  気付いたのは、中学2年の春。告白されて交際していた男性からセックスを迫られ、「無理」だと感じたことがきっかけだった。

◆自分が変なのかと…

 「少女漫画とかを読んでるとキスしたりするのはよくある展開。自分が変なのかなと思ってスマホで『恋愛感情 わかんない』とか『性的欲求 ない』で調べた」。たどり着いたのが、他の人に恋愛感情を抱かないアロマンティック、他の人に性愛(性的)感情を抱かないアセクシュアルという言葉だった。いずれもセクシュアリティーを表現している。  「好きだと言われても好きか分からないから『ありがとう』としか返せないことが心苦しくなっていたので、恋愛感情を持てないこと、性的関係は大学生まで待ってほしいことを伝えました」。男性も納得した上で交際は続いた。だが、高校1年で転機が訪れる。  「彼氏が別の女の子と遊んでいたと友だちから聞いたんです。それを聞いたら『こっちの子の方が好きかも』と言われて」。性的関係を待ってもらっている感覚を抱いていたこともあり、別れを切り出した。

◆「幸せ」への葛藤

 以来交際をしてこなかったが、今夏から別の人と付き合い始めた。そこには「幸せ」への葛藤があった。  「ドラマなどで描かれる世間一般の幸せみたいなものを若干諦められない。憧れが、まだちょっと残ってる。ドラマやアニメで幸せの代名詞みたいな感じで恋愛関係や体の関係が描かれる部分が大きいから、刷り込まれてるんだろうなって考えれば分かるんですけど…。でも、誰かと一緒に生きていくのが楽しいのかもしれないなと、思ってしまって」  鈴木さんは交際中の男性に申し訳なさを感じつつ、まだ自身のセクシュアリティーを明かせないでいる。

◆特別視されない社会を

学生時代からの恋愛や異性への感情などについて話す湊ゆうみさん=東京都千代田区の東京新聞本社で

 恋愛・性愛感情があって当たり前とされる社会で、それらが「ない」感覚を説明するのは難しい。アロマンティック・アセクシュアルを自認する湊ゆうみさん(36)は自らの感覚をこう説明してくれた。  「イルカが大好きな人がいるのは知ってるけど、私には魅力的に見えない状態。でも健康に生きてます、みたいな感じ」  望むのは、性的マイノリティー(少数者)が特別視されない社会。「LGBTQ+というだけで新聞記事になったんだ、と驚かれるくらい、性的マジョリティー(多数者)と同じように扱われるようになる日が来たらいいなと思います」

◆今月の鍵

 東京新聞では国連の持続可能な開発目標(SDGs)を鍵にして、さまざまな課題を考えています。今月の鍵はSDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」と10「人や国の不平等をなくそう」。性愛を伴う異性愛を前提とした世の中で、他者への恋愛・性愛感情を持たない人は「いない」とされがちです。だから、まずは存在を知ってほしい。  文・目黒広菜/写真・平野皓士朗 

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