能登半島地震による高齢者の認知機能への影響について、金沢大などの研究チームが現地調査を進めている。小野賢二郎教授(脳神経内科学)は「コミュニティーの変化も認知機能に影響しうる」として、地震後の暮らしの変化によって認知症が発症したり、症状が加速したりする可能性を指摘する。(岩本雅子)

塗り絵をする高堂小子さん(左)と見守る博美さん=金沢市内で

◆「災害時の認知症予防策が見つかるかも」

 「また地震があったらどうしようって。不安で眠りが浅くなった」。石川県七尾市中島町で9月中旬、MRIで頭部の検査を受けた女性(74)は漏らした。地震で半壊の被害を受けた自宅で暮らしているが、余震の不安から就寝中に何度も目を覚ますようになったという。「何もなければ一番だけど、検査できるのは安心」と話した。  小野教授の研究チームは2006年から、中島町に住む65歳以上の約2400人を3年ごとに調査している。生活環境の変化などを尋ねるアンケートや健康診断で、経年変化を調べてきた。頭部MRIは今年で3回目。脳の大きさや血管の変化を見ることで、ストレスによる高血圧や不整脈などが分かるという。  小野教授は「前のデータと比較することで、地震の影響を調べることができる。今後、災害時における認知症予防の具体策を見つけることができるかもしれない」と期待する。全国各地の研究者からの協力の依頼を受け、口腔(こうくう)内や聴力検査も追加。4月中旬にアンケートを対象者に送り、6月から健診を始めた。これまでに900人を調査したが、2026年までに戸別訪問などを通して対象の9割以上の調査実施を目指す。

◆避難生活・睡眠時間減った92歳女性が認知症に

磁気共鳴画像装置で撮影した画像を確認する小野賢二郎教授(右)=石川県七尾市中島町で

 地震後、認知症の患者は増えている可能性がある。輪島市によると4、5月の2カ月間で認知症の相談件数は59件。前年の16件に比べ、3.6倍になった。  2次避難中に高齢者が認知症になったケースもある。珠洲(すず)市で被災した高堂小子(たかんどう・ちいこ)さん(92)は、断水などの懸念から4月まで京都府の親戚宅に身を寄せた。部屋の隅に座ったままで、外出を控えがちになり、睡眠は1日3時間程度に減った。  7月まで金沢市内の宿泊施設で孫の博美さん(39)が付きっきりで世話をした。小子さんは「泥棒が来た」と物をなくしたり、感情の起伏が激しくなったりして、認知症と診断された。「地震さえなければこうならなかった」。博美さんは涙ながらに苦悩を語った。  小野教授は、個人情報保護の観点から「2次避難者への調査は難しい」と研究チームの課題を明かす。その上で「避難先でも地元に戻っても、同じサービスが受けられるために行政間の連携が大切だ」と訴える。 

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