VTuber(バーチャルユーチューバー)関連の取引を巡り、個人事業主らに無償で仕事のやり直しをさせたのは下請法違反に当たるとして、公正取引委員会は25日、東証グロース上場のカバーに再発防止や社内調査の実施などを勧告した。
対クリエーターの取引では契約の曖昧さや適正取引への認識不足といった問題が指摘されている。11月のフリーランス保護法施行もひかえ、公取委は作り手の保護に向けて業界慣行の是正や法令順守を求める。
カバーは2016年設立でVTuber事務所「ホロライブプロダクション」を運営する。
公取委によると、同社は22年4月〜23年12月にVTuberが演じるキャラクターを動かすモデルの作成などを巡り、23の下請け事業者に対してやり直しの作業を243回無償で行わせた。
作業の必要性は発注書の仕様ではわからず、契約内容は追加作業を含めた価格設定になっていなかった。やり直しを要請する際に金額の交渉もなかった。
公取委は29の下請け事業者に対して追加作業などを理由に代金が支払われていなかった事実も認定し、下請法に基づいて指導した。遅延利息は計約115万円で、同社は既に全額を支払った。
カバーは公取委の調査に「法令違反と認識していなかった」と説明したという。勧告の対象となった下請け事業者の約8割はフリーランスだった。
公取委はフリーランスが多くを占めるクリエーターに報酬が適正に還元されるよう監視を強めている。18日に公表したフリーランスの取引トラブルに関する調査によると「出版物の刊行後に支払う慣習が横行し60日ルールが浸透していない」「事前に契約書を作成するのはまれで多くは口約束」といった報告があった。
公取委は4月に音楽や放送番組などを対象に俳優やタレントと芸能事務所などとの関係について実態調査を開始。年内をめどに調査結果を公表し、取引慣行が独占禁止法に抵触する恐れがある場合は指針で示す。来年からは調査対象を映画・アニメ業界にも広げる。
11月には取引条件の明示などを義務付けるフリーランス保護法が施行され、企業規模にかかわらず対応が迫られる。公取委幹部は「クリエーター分野では作り手の感性によって業務が左右されやすい。不透明な取引慣行を見直す意識が必要だ」と話している。
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