石炭火力発電発祥の地・英国で先月、その火が消えた。「石炭火力ゼロ」は先進7カ国(G7)で初めて。二酸化炭素(CO2)の排出削減は世界的な潮流だが、なぜ実現できたのか。石炭火力に電力供給の約3割を頼る日本が続くことは難しいのか。(宮畑譲)

◆石炭を使い産業革命を起こした国で

 「本当に素晴らしい日だ。英国は石炭によって産業革命で国力を築き上げたのだから」。英BBC放送によると、同国で長く環境相を務めたディーベン卿はこう語ったという。

送電線(資料写真)

 英国最後の石炭火力発電所ラトクリフ・オン・ソア発電所の運転が終了したのは9月30日。中部ノッティンガムシャー州にあり、1967年に完成した。運営するドイツのエネルギー会社が2年で解体し、跡地にはクリーンエネルギーの関連施設を建設する予定だ。  産業革命が始まった英国における石炭火力発電が持つ意味は特別なものがある。1882年、世界初の石炭火力発電所が発明家トーマス・エジソンによってロンドンに建設された。以降、近代化に伴い急増する電力需要を支えた。

◆2008年に世界に先駆けて温室効果ガスの削減目標を法制化

 1990年に入っても、英国における電力供給の大半を占めていた。しかし、2008年に気候変動法を成立させ、世界に先駆けて温室効果ガスの削減目標を法制化。天然ガスや再生可能エネルギーの導入を進めた。2023年には、風力発電や太陽光発電などの自然エネルギーが約50%を占めるまでになり、石炭火力は約1%に減少した。  自然エネルギー財団の大久保ゆり上級研究員は「気候変動法を成立させ、独立した第三者機関がチェックし、政権交代しても科学的な情報を元にCO2削減を進めていくことを決めたことは大きい」と解説する。その上で英国の思惑を「次のエネルギーを何にするのか。世界をリードしようとする意気込みがある。それによって次のビジネスチャンスになると捉えている」とみる。

◆「安定供給が可能なエネルギー資源に乏しい日本としては…」

 他の発電方法と比べ、石炭火力はCO2の排出量が多く、特に先進国の間で脱石炭の流れは強まっている。  今年4月、イタリアで開かれたG7気候・エネルギー・環境相会合では、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電を2035年までに段階的に廃止することで一致した。G7では、英国のほか伊、仏、カナダが2030年までに石炭火力の廃止を掲げる。

2023年6月から稼働した最新の石炭火力発電所=2023年1月撮影、神奈川県横須賀市で

 しかし、日本は現在も石炭火力が約3割を占める一方で、風力、太陽光などは約2割にとどまる。国のエネルギー基本計画では、2030年度に再生可能エネルギーの38%以上を目指すが、石炭火力は19%残る見通しとなっている。  経済産業省資源エネルギー庁は、石炭が比較的安価で安定供給も望めることから、「安定供給が可能なエネルギー資源に乏しい日本としては、一定程度活用していくことが必要」との認識を示す。

◆「10年先も使えるのか」

 海外と比べて後ろ向きな日本の状況。このままでいいのか。  NPO法人「市民電力連絡会」の竹村英明理事長は「石炭火力は当面の間は安いかもしれないが、10年先も使えるのか。日本の市場や社会も自然エネルギーを受け入れる方向に向かっている。国が号令をかければ、あっという間に石炭火力は必要なくなるはずだ」と国の姿勢に疑問を呈す。その上で、現状のままでは、日本経済にもプラスにならないと警鐘を鳴らす。  「CO2を排出してつくった製品は売れない世の中になっていく。既に周回遅れだが、早急にかじを切らなければ、本当に海外に追いつけなくなる。このままでは日本経済は衰退するばかりだ」 

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