研究発表に使用したポスターの前で話す島田真理乃さん(左)と指導した天田祐紀教諭=さいたま市浦和区の埼玉県立浦和第一女子高で
◆積み石が内部から押し出される謎に迫った
浦和一女は8月、文科省が指定した先進的な理数系教育を行う高校「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」の生徒研究発表会で、参加231校の頂点に立った。学校代表として出場した島田さんの研究発表が高く評価された。写真は、上部で積み石が内部から押し出される「はらみだし現象」が起きている江戸城の石垣=4月、千代田区で(島田さん提供)
テーマは、石垣内部から探る「はらみだし現象」の原因。大まかに、石垣内部には土があり、積み石と土の間に、緩衝材の役割を果たす「栗石」という名の小石が敷き詰めてある。積み石が土圧や水圧で押し出される現象を「はらみだし」と呼ぶが、これを主に引き起こすのは小石か土か。◆「土日も夏休みも、テスト期間も200日以上は学校で研究」
昨年5月から、校内の渡り廊下にミニチュアの石垣(幅40センチ、奥行き45センチ、高さ40センチ)を建てて実験を開始。花こう岩を積み、その背後に小石と土の層をつくった。その際、小石の粒径を0.5~6センチの範囲で変えたほか、小石と土の配置を手前と奥、奥と手前、右と左、中央と上下にするなど、内部の条件を変えた。 車載用ジャッキを使って背後から同じ力を加え、それぞれの条件下で積み石が動いた長さを定規で測る。一つの実験に2日がかり。本来は週1回、約20回の授業時間に行うが、島田さんを指導した物理科の天田祐紀教諭(29)は「土日も夏休みも、テスト期間も200日以上は学校で研究していた」と明かす。研究用のミニチュアの石垣を見せる島田真理乃さん=さいたま市浦和区の埼玉県立浦和第一女子高で
実験の結果は? まず、土よりも小石の方が力を伝えやすく、粒径が大きいほどよく伝わった。そして、「小石を右、土を左にした時に、目視でも分かるくらいに積み石が動いたのが一番びっくり」と島田さん。小石は上下より左右方向に力を伝える―。「はらみだし現象」には、粒径に応じた大きさの力を左右方向にも伝える性質を持つ小石の層が影響していた。◆「大学で物理を学んで、修復を研究したい」
島田さんは小学6年の夏、歴史好きの父と訪れた伊賀上野城(三重県)の国内最大級の高さ約30メートルの石垣に魅了された。「石だけで何百年も立っているのがすごい」。雨が多い日本の石垣は、しっくいなどの接着剤を使わず、石のかみ合わせと摩擦力のみで安定させる「空積(からづ)み」が特徴だ。伊賀上野城の石垣を訪れた島田さん=2018年8月、三重県伊賀市で(島田さん提供)
中学3年の卒業論文で、石垣の歴史や構造を取り上げた。全国の城15カ所を巡る間に、石垣の「はらみだし」を気にかけるように。今回の研究で「はらみだし現象は、石垣が受ける力を小石の層で分散させて崩壊から耐えているもので、石垣の構造は理にかなった仕組み」と捉えるようになった。今後は「大学で物理を学んで、石垣のはらみだしを直すなど修復を研究したい」と思い描いている。◆「文化財保護にもつながる」学者・専門家も賛辞
島田さんの研究に関し、生徒研究発表会で物理・工学分野の審査員を務めた東京大の川越至桜(しおう)・准教授(46)は「丁寧に実験を繰り返して物理的に検討し、熱意を感じられて素晴らしい。文化財の保護にもつながる」と語る。研究を記録したノート=さいたま市浦和区の埼玉県立浦和第一女子高で
専門家も注目する。石垣工事に詳しい安藤ハザマの笠(かさ)博義さん(65)は実験の条件設定を「柔軟な発想」と評価。その上で、今回の結果を「石垣の押し方や石の積み方によるものかもしれない」と指摘し、「近代以前に造られた石垣に設計図はなく、補修の根拠として島田さんのような基礎研究は大事」と話す。 ◆文・増井のぞみ/写真・安江実 ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へメールでお願いします。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。