金融庁に出向中の裁判官(現・同庁職員)が業務で知った企業の内部情報をもとに株取引を繰り返した疑いがあるとして、証券取引等監視委員会が金融商品取引法違反(インサイダー取引)容疑で強制調査に乗り出したことが関係者への取材で分かった。一連の取引で、数十万円から数百万円の利益を得た可能性も判明。監視委は東京地検特捜部への告発も視野に解明を進めている。

 関係者によると、強制調査を受けたのは金融庁企業開示課課長補佐だった30代男性。2019年に裁判官に任官し、大阪地裁判事補などを経て今年4月の異動で金融庁に出向した。異動に伴い裁判官の身分は外れている。

 企業開示課は企画市場局に属し、企業の情報開示や有価証券報告書の審査などを担う。裁判官出身の課長補佐はTOB(株式公開買い付け)をする企業の書類を審査するなどしており、業務のなかで知った情報をもとに株取引を始め、数カ月にわたり複数の企業銘柄の株取引を行った疑いがあるという。

 監視委は8月ごろから調査を進め、秋になって課長補佐の自宅などを強制調査した。金融庁はこれを受け、課長補佐を総合政策局秘書課付に異動させた。

 金融商品取引法は、上場会社への調査権がある監督官庁の公務員などが業務で知った会社の重要事実をもとに株取引をすることを禁止。違反すれば、課徴金などの行政罰や5年以下の懲役・500万円以下の罰金といった刑事罰が科せられる。

 公務員によるインサイダー取引では、経済産業省で半導体業界を担当していた審議官が、業務を通じて知った業界大手の増資決定などの情報をもとに株を購入したとして、16年に最高裁で有罪が確定した。

 裁判官の出向は、法律家として広い視野を養うことなどが目的。00年代に進んだ司法制度改革でも外部経験の必要性が提言され、出向の規模が拡大した。出向者は法務省を中心に約160人(昨年末)で、最高裁によると、金融庁には11人が出向中という。

 省庁に出向する裁判官は、いったん検察官へと転官し、検察官の身分として各省庁に出向する例が多い。裁判官は不当な圧力に影響されずに判断を下せるように身分を憲法で保障されており、弾劾(だんがい)裁判を経なければ罷免(ひめん)されない。だが、転官した検察官などはこうした身分保障はなく、出向中に懲戒免職されることもあり得る。

 過去には、裁判官から法務省に出向した管理官が、省内のトイレで盗撮したとして14年に懲戒免職処分になった。

 金融庁は、裁判所から出向中の金融庁職員がインサイダー取引の疑いで証券委の調査を受けたことは把握しているとした上で、「調査結果を踏まえ厳正に対処する」とコメントした。

 最高裁の徳岡治人事局長は「裁判官であった者が金融庁出向中に、インサイダー取引の疑いで調査を受けていることは遺憾。事実関係の詳細を把握していないためコメントは控えたい」としている。

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