原発事故時に住民の被ばくを低減させる屋内退避のあり方を議論してきた原子力規制委員会の検討チームは18日、中間の取りまとめを公表した。地震などでライフラインが止まり自宅にとどまれない場合は、国が避難の指示を出すとした。だが、国の判断の基になる情報の提供は、自治体任せ。自治体側からは地震などとの複合災害時に国への情報伝達がスムーズにいくのか不安も聞かれ、実効性を疑問視する声も出ている。

◆目安は3日間、水と食料が供給できれば継続する場合も

 この日の会合で案が示され、了承された。今後、屋内退避の対象になる原発5~30キロ圏内の自治体に意見を聞くなどして、本年度末までに最終報告を示す。  まとめによると、自宅などで屋内退避を続ける期間は3日間を目安とし、水や食料が供給できれば、それ以降も継続する場合があるとした。国や自治体が防災基本計画で、最低3日間の備蓄をするよう住民に求めていることを根拠とした。

避難所の駐車場で雪かきする子ども=2024年1月7日、石川県輪島市で

 屋内退避中、生活物資の受け取りや屋根の雪下ろしなど一時的な外出は可能とする考えも示した。  また、電気、ガス、水道などライフラインが途絶し、屋内退避が難しくなったケースでは、国が地方自治体などからの情報提供を基に総合判断し、避難に切り替える指示を出すとした。  屋内退避の解除時期は、炉心の状況が把握でき、事故対策がうまくいっている上、放射性物質の滞留がなくなった時などとした。東京電力福島第1原発事故のような深刻なレベルの事故の場合は、屋内退避ではなく、避難に切り替わるとみられる。  1月の能登半島地震などを受け、屋内退避の運用を明確化するよう求める声があり、規制委に検討チームが設置された。4月から計6回の会合が開かれた。(荒井六貴)   ◇

◆確認は現場に直接?電話でOK?戸惑う自治体

 大地震などで建物が倒壊し、ライフラインが止まれば、自宅や近隣の避難所での屋内退避が難しいことは、今年1月の能登半島地震でも明らかになった。規制委の検討チームが18日に示した中間まとめは、こうした場合には屋内退避から避難指示に切り替えることを明確にしたが、課題を残した。(荒井六貴)  「屋内退避は前提だが、できない時にそう言うつもりはない。命を守ることを優先にしている。具体的に、誰がどうするのかを示したのは初めてだ」  中間まとめについて、規制委事務局の原子力規制庁の担当者はそう説明する。

農協内に開設された避難所で過ごす人たち=2024年1月7日、石川県輪島市で

 原発で放射性物質が漏れる深刻な事故が起きた場合、原子力災害対策指針では原則、原発5キロ圏内の住民は避難し、5〜30キロ圏内はまずは屋内退避するとしている。放射線量が高くなってくれば、避難に切り替わる。  ただ、地震や津波などの複合災害が起きれば、自宅や近くの避難所で電気や水道などが途絶えたり、建物が倒壊したりして、とどまることがそもそも困難になる。  中間まとめでは、避難への切り替えについて、放射線量だけではなく、食料の供給や電気、ガス、上下水道などの状況も勘案することとし、自治体やインフラ事業者から情報を受けて、国が総合的に判断することにした。

◆備蓄が枯渇したら?「一時的な外出」の基準は?

 ただ、国への情報提供を担う自治体からは不安が漏れる。福井県敦賀市の担当者は9月の会合で「住民の状況を確認する自治体の体制に課題がある。現場に直接確認にいくのか、電話で確認なのか」と疑問視。その上で「複合災害が起きると、自治体職員が避難所運営の対応にあたる中で、圧倒的なマンパワー不足になる」と実情を訴えた。  また、屋内退避の目安となる3日間についても、原発事故前に地震などが起きた場合、備蓄の食料や水を使ってしまっていることも想定される。宮城県の担当者は「備蓄が枯渇するケースがあるのではないか」と訴えた。屋内退避中の一時的な外出はどんな場合に認められるのか具体化するよう求める意見も出た。  検討チームは本年度内に最終まとめを出す予定で、より実効性の高い運用計画の検討が求められている。 

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