絵本「ぐりとぐら」シリーズなどで知られる、児童文学作家の中川李枝子さんが亡くなりました。「ぐりとぐら」の誕生秘話を語った中川さんのインタビューを掲載します。中川さんのご冥福をお祈り申し上げます。(初出は2013年8月8日東京新聞朝刊。年齢などは当時)
人気絵本「ぐりとぐら」は今年、出版から50年。国内では、子ども向けの絵本がまだ少なかった時代に登場した2匹の野ネズミの物語は、シリーズ累計2400万部を超える大ベストセラーに成長した。作者に誕生秘話を聞いた。◆「目の前の子どもを喜ばせたいだけ」
「私はただ、目の前の子どもを喜ばせたいっていうだけなのよ。あれは私の保育園の子たちへのプレゼントなの」。作者の中川李枝子さん(77)は振り返る。「ぐりとぐら」の誕生秘話などについて話す絵本作家の中川李枝子さん
「ぐりとぐら」は1963年、福音館書店(文京区)の月刊絵本「こどものとも」の一冊として出版された。当時、中川さんは都内の保育所で保育士として働いていた。絵本で子どもたちの創造力を育もうと、自分で選んだ本を読み聞かせするうちに、自分でも物語を書くようになったのがきっかけだった。 生き生きとした園児たちの姿を描いた「いやいやえん」を同人誌に発表した後、ぐりとぐらを書いた。青い洋服と帽子姿の「ぐり」と赤の「ぐら」は、双子の野ネズミ。森の中で見つけた大きな卵でカステラを焼き上げる。◆双子にした理由は…
「主人公がしっかり自分の中で生きていなければ、お話は動きださない」。主人公を双子にしたのは、自分自身が双子にあこがれていたからだと言う。ぐり、ぐらの名は、大好きなフランスの絵本の中に出てきた歌から取った。その絵本に野ネズミが出てきたことや、卵の大きさを強調することを考えるうちに、ネズミを思いついた。 最初、雑誌に掲載されたときは「たまご」という題だった。こどものとも編集長だった松井直・現相談役が「ぐりとぐら」で絵本化することを企画した。絵は中川さんの妹、山脇(旧姓大村)百合子さん(71)が担当した。◆ネズミ色ではつまらないから
ネズミの絵はどうしたらいいか。山脇さんは、上野の国立科学博物館でモグラやネズミを研究する今泉吉典さんを訪ねた。動物画の第一人者である薮内正幸さんが同行し、研究室で標本の入った引き出しを片っ端から開けてみた。すると、オレンジ色の小さなネズミが現れた。「ネズミがネズミ色じゃつまんないな」。そう思った山脇さんは、これをモデルにしようと決めた。種類は覚えていない。誕生して50年になる「ぐりとぐら」。シリーズ作品も人気だ
「ぐりとぐら」のシリーズ絵本はこれまでに7作品が出版され、英語、中国語、韓国語、デンマーク語などにも訳されている。 「ぐりとぐらとすみれちゃん」などを担当した編集者の井上博子さん(64)は10年ほど前、アフリカのマラウイ共和国の子どもたちに絵本を見せた。「カステラを見たことがないはずの子どもたちが、カステラを食べるまねをしたりして本当に喜んでいた」ことがいつまでも忘れられない。 井上さんは「奇をてらったところがなく、子どもたちが基本的に求めている親しみやすさや温かさにあふれているのが、時代や国を超えて読み続けられる理由ではないでしょうか」と話した。 文・小林由比/写真・千葉一成中川さんが家族のことを語った記事はこちら
【追悼】児童文学作家・中川李枝子さん 情操教育に心血注いだ父と母
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