パレスチナ自治区ガザでの戦闘開始から7日で1年が過ぎた。イスラエルの攻撃による死者が4万人超といわれる中、同国の軍需企業が参加する国際見本市が16日、東京都内で始まった。イスラエルの攻撃はレバノンにも拡大。国連の平和維持部隊まで攻撃対象とし、非難を浴びている。それでも日本は官民挙げて、イスラエルと防衛分野で関係を深めるのだろうか。(中川紘希、山田祐一郎)

国際航空宇宙展の会場近くで抗議デモをする人たち(池田まみ撮影)

◆米ボーイング、イギリスのBAEシステムズ…

 「子どもを殺すな」「『航空宇宙』でごまかすな」。「国際航空宇宙展」の会場となった東京ビッグサイト(江東区)の前で16日、「国際航空宇宙展を虐殺兵器展にするな! キャンペーン」に参加した市民約130人が抗議の声を上げた。  同展は、防衛と関係が深い航空宇宙産業の団体「日本航空宇宙工業会」(港区)が1966年から数年おきに開催している。新型コロナの影響で6年ぶりとなった今回は、23カ国から約700の企業・団体が出展。イスラエルの軍需大手エルビット・システムズのほか、米国のロッキード・マーチンやボーイング、英国のBAEシステムズなど、国連人権理事会の特別報告者らが6月、声明でイスラエルに武器を輸出しないよう求めた企業も参加している。

国際航空宇宙展に出展したイスラエルの軍需企業「エルビット・システムズ」のブース

◆「見本市は人を殺す能力を競い合う場所」

 抗議活動では、犠牲者に擬して横たわる「ダイ・イン」をし、「死の商人にならないで」と記したチラシを配布。同展を後援する内閣府や防衛省、外務省など各省庁も批判した。  キャンペーンの中心となった市民団体「武器取引反対ネットワーク(NAJAT)」の杉原浩司代表は「見本市は人を殺す能力を競い合う場所。憲法9条で武力を放棄した日本でなぜ軍需企業が堂々と出展できるのか」と批判した。  一方、日本航空宇宙工業会の中村知美会長は開会式で、「近年の航空宇宙産業の市場拡大」に触れ「(イベントが)関係者のさらなる飛躍の契機になることを確信している」とあいさつ。城内実・経済安全保障担当相は「宇宙政策を推進しわが国の宇宙活動をより強固にしたい」と述べ、いずれも軍需企業との関わりには言及しなかった。

国際航空宇宙展に出展したイスラエルの軍需企業「エルビット・システムズ」のブース

◆抗議活動について尋ねると広報担当者は…

 会場内の海外企業の出展エリアは、大小さまざまなドローンが目を引いた。エルビット・システムズでは、ドローンや戦車の部品、デコイ(攻撃をそらすおとり)の模型などが紹介されていた。スクリーンには、ヘリコプターが大量のミサイルを発射したり、ミサイルが建物を爆破したりする映像が映し出されていた。  広報担当の女性に、抗議活動について尋ねると「権限がなくて取材に応じられない」と言葉少なだった。

◆「日本に次世代航空機の開発事業をアピールしたい」

 BAEシステムズのブースではドローンのほか、敵や味方の位置をガラス面に表示する戦闘機パイロット用のヘルメットなどが並んでいた。同社は、日本と英国、イタリアが進める次期戦闘機の開発プロジェクトに参画しており、機体の模型を展示。自衛隊員とみられる男性たちが模型と一緒に記念撮影していた。

日本、英国、イタリアの企業が共同開発を目指す戦闘機の模型。国際航空宇宙展で展示された(池田まみ撮影)

 同社の担当者ジョン・ストッカー氏は「日本国内に次世代航空機の開発事業をアピールしたい。3国の関係を強固にして、商品として輸出できるようにしたい」と述べる一方、抗議活動については「日本政府の問題でコメントできない」と評価を避けた。  日本航空宇宙工業会は同展のウェブサイトに「出展内容に関する判断は皆様に委ねる」という見解を掲載。「こちら特報部」は16日、取材を申し込んだが、「運営が忙しくコメントできない」と応じなかった。

◆第2次安倍政権で加速したイスラエルとのつながり

 日本は近年、イスラエルとの防衛面でのつながりを強めている。「2000年代以降に日本と米国、イスラエルの動きが重なった」と東京経済大の早尾貴紀教授(パレスチナ・イスラエル研究)が説明する。「2001年の米中枢同時テロ後、米国が『対テロ戦争』を掲げる中で、イスラエルはパレスチナやアラブ諸国相手に実戦で使ってきた技術を世界に売り込むことで急成長した。日本はアジアでの緊張の高まりを理由に防衛強化を図り、その際に制約になる憲法の解釈を変更し、安全保障法制整備を進めてきた」

安倍晋三元首相(資料写真)

 イスラエルとのつながりは第2次安倍晋三政権下で加速する。2014年4月、安倍政権は武器輸出三原則に代わり、武器の輸出や他国との共同開発を事実上解禁する防衛装備移転三原則を閣議決定した。翌月、安倍首相(当時)とネタニヤフ首相が会談し、防衛当局間の交流促進やサイバーセキュリティー分野の協力を確認する共同声明を発表した。

◆防衛省の契約締結7件のうち4件はイスラエル製

 ここに来てさらに関係が深まりそうな背景事情もある。「日本の防衛予算の拡大は大きな商機であり、今回の出展でもイスラエル側は積極的に売り込みたいのだろう」と早尾氏はみる。  防衛省は8月に決定した2025年度予算の概算要求で、小型攻撃用ドローン310機分の取得費30億円を計上した。導入に先立ち、2023年度に実証実験用のドローンを調達したが、契約を締結した7件のうち4件はイスラエル製だった。  「こちら特報部」の取材に、防衛省は「実証実験で選定するものではない。さまざまな要素を勘案して決定するため、現時点で特定の国の装備品の取得をあらかじめ考えているわけではない」とコメントした。

自民党総裁室に座る石破茂首相(資料写真)

◆国際社会の批判が高まるイスラエル

 イスラエル軍は先月末、イスラム組織ハマスとの連携を掲げる親イラン民兵組織ヒズボラが拠点とするレバノンにも侵攻。平和維持活動のため駐留する国連レバノン暫定軍(UNIFIL)にも攻撃を加えた。UNIFILに参加する40カ国が攻撃の即時停止と調査を求める共同声明を出すなど、国際社会の批判は高まっている。  イスラエルによる攻撃がエスカレートする中、就任したばかりの石破茂首相の反応は鈍い。今月8日、参院本会議の代表質問でイスラエル軍の攻撃への見解を問われ「事実関係を十分に把握することは困難であることから確定的な法的評価を行うことは差し控える」と答弁するにとどまった。

◆専門家「平和国家のアイデンティティー壊れつつある」

 「法的な見解はジェノサイド防止への暫定措置命令を出した国際司法裁判所(ICJ)やネタニヤフ首相に逮捕状を請求した国際刑事裁判所(ICC)の対応を見れば明らかではないか」と指摘するのは、立命館大客員研究員の金城美幸氏(パレスチナ地域研究)。フランスやイタリア、英国など先進国ではイスラエルへの武器禁輸の動きがある。だが日本では、展示会以外にも、年金資産を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がエルビット・システムズの株式を保有する実態もあるとして「政策の現状維持のため、国際法違反の問題への評価をあえてしない姿勢に見える」と批判する。

国際航空宇宙展の会場近くでイスラエル企業の出展などに反対する人たち=東京都江東区で

 大阪女学院大の高橋宗瑠(そうる)教授(国際人権法)も「エルビットはイスラエルを代表する軍需企業。同社をもうけさせることでイスラエルの軍事を支援することや、植民地政策へ加担することはやるべきではない」と強調する。  高橋氏は「政府や与党には、米国がイスラエルを支援しているから大丈夫だという安易な考えが見られる」と懸念し、こう訴える。「平和国家としてのアイデンティティーが壊れつつある。国際法の順守を主導的に呼びかけるのが日本政府の立場のはずだ」

◆デスクメモ

 抗議活動のメンバーは3日、日本航空宇宙工業会にイスラエル企業の出展中止を求める署名提出を図ったが、受け取りを拒まれたという。議論の対象になることすら嫌なようだ。だが、ガザの状況は見過ごせるレベルではない。批判に向き合わなければ、見識への不信感が増すだけだ。(北) 

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