最高裁裁判官の国民審査が27日、衆院選の投票と同時に全国の投票所で行われる。憲法79条に定められた手続きで、職責にふさわしいかどうかを有権者が投票で直接審査する唯一の機会となる。衆院選と同じく16日から期日前投票ができる。今回審査を受けるのは、2021年10月の前回衆院選以降に任命された6氏。
辞めさせるべきだと考える裁判官に「×」を書き、信任する場合は何も書かない。「×」以外を記入すると全て無効になる。有効投票の過半数が「×」だった裁判官は罷免される。
審査は1949年に初めて行われ、今回で26回目。これまでに延べ190人の裁判官が審査対象となったが、罷免された事例はない。
前回までは海外に住む邦人は投票できなかったが、2022年に最高裁が憲法違反と判断。これを受けて国民審査法が改正され、今回から投票できるようになった。
6氏にアンケート
国民審査を受ける6人の裁判官に実施したアンケートの主な回答を、最高裁で関与した主な裁判や略歴とともに、告示順に掲載する。
▼質問項目
①最高裁裁判官としての信条、大切にしていることや心構え
②司法分野における生成AI(人工知能)の活用のあり方
③再審無罪の事例から裁判所が得るべき教訓
④法的紛争がグローバル化する中で、日本の裁判所が果たすべき役割
⑤夫婦別姓や同性婚を巡る裁判が起きている。社会の変化や価値観の多様化に伴う国民の声の高まりに裁判官はどう向き合うべきか
尾島 明氏
おじま・あきら 東京大法卒。85年判事補。大阪高裁長官を経て、22年最高裁判事。66歳。
▼関与した主な裁判
22年参院選の「1票の格差」を合憲とした大法廷判決で「違憲状態だった」とする意見(23年10月)
▼回答
①裁判の本質的価値は「中立的な立場で独立して職権を行使する裁判官が、透明性の高い手続きを通じて、適時に紛争を解決すること」だ。これを実現するのが良い裁判だとの信念で裁判をしてきた。
②これまでも新しい技術の進歩が裁判のあり方に影響を与えてきている。裁判の基本的な本質を踏まえながら、どう使えばより効率的で当事者や国民の満足のいく利用が可能なのか、様々な角度から検討を加える必要がある。
③再審事件についても、裁判所は現行の法令と判例に基づいて良い裁判を実現しようと努力しているものと理解している。
④日本の裁判所の実務は、国際的にみても非常に質の高いものということができ、これをもっと対外的に発信していく方策を工夫して、世界の司法により貢献できればよいと思う。
⑤問題によっては社会状況の変化などにより憲法や法律の適用のあり方が変遷し得ることは、最高裁判例も示している。当事者の主張立証をよく吟味して判断することが必要だ。
宮川 美津子氏
みやがわ・みつこ 東京大法卒。86年弁護士登録。日弁連知的財産センター委員長を経て、23年最高裁判事。64歳。
▼関与した主な裁判
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)が信者と交わした、献金の返還請求の訴えを起こさないなどとした念書を「公序良俗に反して無効」とし、二審を破棄した判決(24年7月)
▼回答
①当事者だけでなく社会に大きな影響を与えることを胸に刻み、事件の一つ一つに誠実に向き合い、公正で妥当な判断を行えるよう全力で取り組む。
②活用については前向きに考えているが、特に裁判官の判断に関与させることは裁判制度の根幹に関わる。国民の信頼を損なうことのないよう、より慎重な議論が必要だ。
③個々の事案で当事者が適切な訴訟活動を行い、裁判官が適切な審理判断をすることが必要。「疑わしきは被告人の利益に」の原則の下、証拠評価に誤りがないか慎重に検討し合理的な判断を行うよう努めたい。
④外国人にも利用しやすい民事司法制度を構築するとともに、国際私法や国際的な紛争に適用される条約・法令を理解し、グローバル化に対応できる組織・体制を整えていく必要がある。
⑤一般論として、社会変化や価値観の多様化など背景にある社会状況や国民意識、国際的な潮流なども考慮した上で判断したい。
今崎 幸彦氏
いまさき・ゆきひこ 京都大法卒。83年判事補。東京高裁長官を経て22年最高裁判事、24年8月から最高裁長官。66歳。
▼関与した主な裁判
性同一性障害の国家公務員に対し、職場の女性用トイレの使用を制限した国の対応を「違法」とした判決の裁判長(23年7月)
▼回答
①当事者双方の言い分に謙虚に耳を傾け、よく理解した上で裁判する。裁判の枠組みを超えて独善に陥らないようにする。
②裁判のコアである判決などへの利用は、裁判のあり方にも関わるので慎重に考えなければならないが、機械的な業務であれば事務の合理化、効率化の観点から前向きに考える余地はある。ただ秘匿性の高い情報の扱いなど課題は少なくない。
③有罪が確定しながら、再審の結果無罪が確定する事例が生じたことは、裁判所としても真摯に受け止めるべきと考えている。
④国をまたがった法的紛争は、管轄、関係国の法令や行政法規だけでなく、商取引なら取引慣行、家事事件なら国特有の家族制度など、検討すべき事項が多岐にわたる場合が多い。これらを適切に考慮した国際的にも通用する判断が求められる。
⑤社会の変化や価値観の多様化などに伴い、新たな論点をはらむ事件は今後増えていく。法的な観点からの分析・検討に加え、紛争の背景、社会的実体なども見据え多角的な視点に立ったバランスの取れた判断が求められる。
平木 正洋氏
ひらき・まさひろ 東京大法卒。87年判事補。大阪高裁長官を経て、24年最高裁判事。63歳。
▼関与した主な裁判
(就任後間もないため特になし)
▼回答
①最高裁は最終審であり、その職責の重さを十分に自覚した上で、中立公正な立場から一つ一つの事件に誠実に向き合っていきたい。そのためには謙虚に両当事者の言うことに耳を傾け、証拠を検討する姿勢が重要だ。
②当面は、裁判における判断作用は裁判官が行うことを大前提とした上で、裁判官の執務を効率化するための利用を図るのが現実的な検討課題だ。
③個々の裁判官が過去の再審無罪の事例に学び、自分自身が担当する再審請求事件などの処理に生かすことが必要だ。
④グローバル化した法的紛争に適切に対処するには、そうした事件を担当する裁判官が、外国の法制度や国際的取引における商慣行などを正確に理解した上で、国際的に十分通用するような判断を示す必要がある。
⑤一般論として、広い視野をもって対立する主張に耳を傾け、適切な判断を示すことが求められる。そのためには、各裁判官は日々の仕事や研究会などを通じて、自律的に識見を高める必要がある。
石兼 公博氏
いしかね・きみひろ 東京大法卒。81年外務省入省。国連大使を経て、24年最高裁判事。66歳。
▼関与した主な裁判
強制不妊を認めた旧優生保護法を憲法違反とし、国の賠償責任を認めた大法廷判決(24年7月)
▼回答
①法曹界の外で培ってきた経験も踏まえ、一つ一つの案件について予断を排して、関係者の主張に謙虚に耳を傾けつつ、妥当と信じる解決を探っていきたい。
②活用がもたらす大きな効用を実現しつつ、リスクをどのように適切に管理するかについて様々な議論が行われている。司法でもそうした点を念頭におき、活用のあり方を考えていきたい。
③誤判はあってはならない。そのためには関係当事者が法にのっとって丁寧かつ慎重な訴訟活動を行い、司法も予断を排した審理判断を心がける必要がある。
④国により異なる社会事情、文化、商慣行なども念頭に、当事者の意見にしっかりと耳を傾けながら、どのような判断が国際社会において正当な評価を得ることができ、また日本にとって中長期的にも適切なものとなるか考えていくことが必要だ。
⑤価値観の多様化が社会の分断ではなく、新たなエネルギーの創造へとつながることを期待しつつ、諸般の事情を十分に考慮して個別の事案に向き合いたい。
中村 慎氏
なかむら・まこと 京都大法卒。88年判事補。東京高裁長官を経て、24年最高裁判事。63歳。
▼関与した主な裁判
(就任後間もないため特になし)
▼回答
①最終審としての最高裁の判断の重み、国民生活や社会経済活動に与える影響の大きさに思いを致し、司法、裁判の果たすべき役割を意識して、一件一件の事件に誠実に向き合い、多角的・多面的な視点から議論するよう心がけたい。
②裁判への国民の信頼確保という視点が極めて重要。現在行われている議論を踏まえ、メリット、デメリットをよく分析し、国民の理解を得られるような利活用を検討していく必要がある。
③誤判を生じさせないためには、個々の事案で当事者が適正な訴訟活動を行い、裁判所は「疑わしいときは被告人の利益に」の鉄則の下、証拠評価に誤りがないか慎重に検討することが必要だ。
④国際的な要素を有する法的紛争では、外国の法制度や国際的取引における慣行などの知見を適切に審理に取り入れ、国際的にも通用し得る紛争解決を目指す必要がある。
⑤国民の価値観や意識の多様化に伴って生じる新たな社会的な問題にも、広い視野を持ち、対立する主張に耳を傾けて判断し、説得的な理由を示すことが求められる。独善に陥ることなく、多角的・多面的な視点から議論することが重要だ。
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