京都府福知山市で9日、野生のニホンジカに襲われたとみられる男性が死亡した。角が心臓に達した可能性がある。愛らしいイメージもあるシカだが、この時期の雄は繁殖期ということもあって気が立って危険だという。シカを巡っては各地で食害も起きている。どう付き合えばよいのか。(宮畑譲)

◆死亡事故の京都・福知山市では毎年4000〜5000頭を捕獲

 現場となったのは、市内の山間地にある田んぼ。9日午後6時ごろ、近くに住む男性(68)が「農作業に行ったまま帰ってこない」と近所の人が110番。約1時間、警察や消防が捜索したところ、田んぼで上半身から血を流して倒れている男性を消防署員が発見。死亡が確認された。

越冬するニホンジカ。雄には鋭い角が生えている=2008年、栃木県内(堀内洋助撮影)

 京都府警福知山署によると、男性の周囲にはシカの足跡があり、男性の衣服には獣の毛がついていた。司法解剖したところ、先のとがった棒状のもので胸を刺され、心臓近くまで達したことが致命傷になった。こうした状況から、男性はシカに角で胸を突かれて死亡したとみられている。  京都府の西側で兵庫県の北東部と接する福知山市は山が多く、市の土地面積の70%以上が森林だ。それだけにシカの数も少なくない。人口約7万5000人の自治体で、毎年の捕獲頭数は4000〜5000頭に上る。  人身被害は多いのか。市の農林業振興課に聞くと、「わなにかかった動物に逆襲され、けがをした話は聞くが、亡くなったケースは聞いていない」という。10〜11月は繁殖期を迎えた雄の気が荒くなっており、「無理に追うことはせず、絶対に近づかないで」と警告する。  シカの危険性はどの程度なのか。全日本鹿協会の小林信一事務局長は「シカは普段は臆病で人に危害を加えることはない。ただ、秋の雄は気が立っていて大変危険。(本州のシカでは)体重100キロになる個体もいる。枝角は鋭利で硬く、容易に人間の体を突き通す」と指摘する。

◆奈良公園では「けが人の大部分は外国人旅行者」

 クマほどではないが、シカによる死亡事故は過去にも起きている。  昨年10月、島根県中山間地域研究センターのシカを飼育する柵内で男性職員=当時(64)=が死亡していた。状況から、雄の角で体を突かれたとみられている。2002年10月にも、宮城県牡鹿町(現石巻市)で、男性=同(67)=がシカよけのネットに引っかかった雄に脚の付け根を角で刺され亡くなった。  人になれているはずの奈良公園のシカにけがを負わされる事故も今年に入り、急増している。奈良県によると、4〜9月の公園内での事故は115件と、昨年同期の58件に比べ倍近くに。新型コロナ禍前の水準に戻っており、外国人旅行者の増加と関係があるという。  県の担当者は「けがをした人の大部分は外国人旅行者。正しい接し方を知らない人も多い。特にこの時期の雄には気を付けないといけない。積極的な広報につとめたい」と話す。

◆全国の生息数は30年で約5倍に…シカがすめる森が必要

 環境省は、30年前と比べ、全国のシカの生息数は約5倍に増えたと推測する。ここ10年の頭数は横ばいで食害もなくならない。「ジビエ」と称して消費拡大を目指す動きもあるが、手間やコストの問題などから根本的な頭数減につなげるのは難しい。シカ被害を減らすにはどうすればよいのか。  先の小林氏は柵などによる被害防除や農作物で意図せず誘因しないための対策に加え、森林整備の重要性を訴える。「戦後の拡大造林で、広葉樹から針葉樹に植え替えられた。しかし、木材価格の下落や人手不足で間伐が行き届かず、野生動物の餌は少なくなった。シカも少ない下草を食べ尽くし、人里に出てくるようになった。森林を整備し、シカがすめる森をつくることが大事だ」 

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