宇宙ビジネスが拡大している。新たな成長産業と期待され、日本でもスタートアップや異業種の参入が相次ぐ。人工衛星で集めた画像データはさまざまな分野で活用され、低コストの小型衛星などへの需要も高まっている。本格的な政府支援が始まり、国内産業化も軌道に乗りつつあるが、国際競争は激しい。(経済部・砂本紅年)

◆国家事業 今は昔

 宇宙開発はこれまで国の威信をかけた事業として各国が官主導で進めてきた。21世紀に入りITの進展や関連部品の低コスト化などを受け、宇宙ビジネスへの民間参入が増えた。国際宇宙ステーション(ISS)への人や物資の輸送サービスなど、民間にできることは民間に任せる方向に流れが変わった。  米国は政府が顧客となって、民間サービスを購入することで市場を活性化し、宇宙開発の民営化を一気に進めた。中心となるのが、米電気自動車メーカー「テスラ」の経営者イーロン・マスク氏の「スペースX」や、米インターネット通販大手アマゾン・コム創業者ジェフ・ベゾス氏の「ブルーオリジン」などだ。低価格のロケットや宇宙旅行などで世界を席巻する。  国際シンクタンクの世界経済フォーラムは4月に発表した報告書で、宇宙ビジネスの市場規模が2035年に現在の約3倍の約260兆円に達すると予測した。成長のけん引役は「通信・放送」、衛星利用測位システム(GPS)などの「測位」、気象観測、防災に役立つ「地球観測」など、人工衛星に関連する分野だ。さまざまな画像から得られるビッグデータで農業や漁業、資源管理、金融、不動産開発など幅広い業種で活用が見込まれる。

◆世界の打ち上げ数は5年で5倍以上

 多数の小型衛星を一体的に運用する商業用の「衛星コンステレーション」が主流となり、低コストで頻繁なデータ観測やへき地でのネットサービスも可能となった。内閣府によると、2022年の衛星打ち上げ数は世界で2368機と、5年間で5倍以上に伸びた。中でもスペースXの通信サービス「スターリンク」は既に6000機の衛星を打ち上げ「1強」状態だ。  多くの人があこがれる宇宙旅行の動向にも注目が集まる。宇宙飛行士でない一般の人が、宇宙空間での無重力体験やISS滞在を相次いで体験した2021年は「宇宙旅行元年」と呼ばれた。

◆日本でも法律成立で急増

 「日本でも宇宙スタートアップが増え、業界が活性化している。5年前には考えられなかった」。三菱総合研究所の内田敦主席研究員(49)は話す。

軌道上サービスの「アストロスケール」は2月から、軌道上の宇宙ごみに接近し調査する世界初の実証に挑んでいる(イメージ画像、同社提供)

 日本の宇宙スタートアップは約100社。宇宙の商用化を後押しする法律が成立した2016年以降に急増した。月面の資源開発などを目指す「アイスペース」が昨年上場したのを皮切りに、宇宙ごみ除去など軌道上サービスを展開する「アストロスケール」など4社が上場した。

◆「当初はクレイジーと言われたが」

 2008年に起業し、小型衛星の事業を展開する「アクセルスペース」最高経営責任者(CEO)の中村友哉(ゆうや)氏(44)は「設立当初は『衛星を作るなんてクレイジー』と言われたが、今はビジネスの観点で見るのが当たり前になった」と語る。

衛星5機を同じ軌道上に配置し、観測画像データを提供している「アクセルスペース」(イメージ画像、同社提供)

 政府も本腰を入れ始めた。昨年改定した「宇宙基本計画」で国内市場を2030年代早期に8兆円に倍増することを目標に掲げた。今年3月には「宇宙技術戦略」を作成、10年間で1兆円規模の「宇宙戦略基金」創設などを盛り込んだ。基金は主に「探査」「輸送」「衛星」の3分野計22テーマが支援対象だ。

◆政府の需要創出に期待

 アイスペース最高財務責任者(CFO)の野崎順平氏(44)は「基金は起爆剤となる。『夢物語』とあしらわれた宇宙ビジネスが投資対象となった」と評価する。

アイスペースが今冬に2度目の挑戦で打ち上げ予定の月着陸船(左)と月面探査車(イメージ画像、同社提供)

 世界と比べると、米国、中国との差は大きい。昨年の世界のロケット打ち上げ成功回数212回のうち日本はわずか2回。宇宙技術戦略で2030年代前半の目標とする年30回はまだ遠い。  三菱総研の内田氏は「今後の宇宙ビジネスは、先頭を走るフロントランナーのメンタリティーも必要」と指摘する。国内市場が限られる中、海外市場や新たな未知のマーケットの開拓が不可欠という。同社の山中祐治主任研究員(34)も「欧米のように政府が民間サービスの顧客として需要をつくることが必要」と強調した。 

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