9月の石川県能登地方の記録的豪雨で犠牲になった同県輪島市の中学3年生、喜三翼音(きそ・はのん)さんの祖父母が営む輪島塗の「喜三漆芸工房」が19、20の両日、同県白山市の金城大と同大短期大学部の学園祭「金城祭」に出店する。出店は豪雨後初で、祖母の悦子さん(64)は「悲しみは明けることはないけど、頑張っていると翼音も応援してくれると思う」と話している。(中尾真菜)

喜三翼音さんが気に入っていたというフクロウの柄の絵付けをする祖父の誠志さん=10日、石川県野々市市で

◆「ずっとめそめそしていたら…」

 祖父で蒔絵(まきえ)師の誠志(さとし)さん(63)と悦子さんが輪島市の朝市通りに構えていた店は、元日の能登半島地震による大規模火災で焼失した。震災後、全国各地で開かれるようになった「出張輪島朝市」に出店しており、今年6月ごろ、親交のあった金城大を運営する金城学園の職員から依頼を受け、学園祭にも出店することになった。  9月21日に能登を豪雨が襲い、その後は出店依頼を全て断っていた。学園祭への出店も迷っていたが、12日の翼音さんの告別式後の開催ということもあり「ずっとめそめそしていたら、翼音も喜ばないんじゃないか」と出店を決めた。

◆生前お店を手伝ってくれた翼音さん

学園祭で店頭に飾る喜三翼音さんの写真=遺族提供

 地震後、誠志さんと悦子さんは同県野々市市に拠点を移しており、翼音さんは野々市から高校へ通い、大学に進学して公務員になる目標を描いていたという。悦子さんは「翼音も(学園祭に)行きたかっただろうな」と声を震わせた。  翼音さんは中学1年の時から恒例の「輪島朝市」での出店を手伝っていた。最初は声を出して客を呼び込むのも緊張していたが、いつの間にか商品の陳列や包装、会計などを1人でこなせるようになっていた。誠志さんは「これから一緒にできんと思ったらね、悔しいですけども。心の中にはちゃんと思い出があります」と孫の姿を思い浮かべる。

◆翼音さんが「絶対売れる」と話したデザインも

 学園祭では、誠志さんが絵付けした漆塗りのカップやぐい飲みなどを販売する。誠志さんは今、カップの絵付けに取り組んでおり、翼音さんが「もっといっぱい作らんとだめ。これ絶対売れる」と話していたフクロウを描いている。  学園祭は両日の午前10時~午後4時に金城大笠間キャンパス(白山市笠間町)で開かれる。学園祭の日は翼音さんの写真も店頭に飾る。「一緒におると思って、頑張るしかないなって」 

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