◆掃除を担当してもらうことで、職員はケアに注力できるように
岐阜市の林祐実さん(33)は3月から、週に2日2時間半ずつ、市内の山内ホスピタル介護老人保健施設で働く。施設利用者が寝たままの状態で入浴する「機械浴」で使うストレッチャーなどの掃除を担当する。「職員の皆さんに『いつもありがとう』と言ってもらえるのがうれしい」と林さん。施設の統括部長吉井秀仁さんは「今までは介護職員が担当していた仕事で本当に助かっている。その分、職員は高齢者のケアにより力を入れられる」と話す。機械浴のストレッチャーを掃除する林祐実さん=岐阜市の山内ホスピタル介護老人保健施設で
林さんはかつて、小売店でレジ担当として働いていた。その際は精神疾患で体調を崩し、やめざるをえなかった。今もフルタイムやそれに近い勤務に就く自信はない。ただ、「超短時間」なら働けると、市の委託を受けた社会福祉法人が運営する「超短時間ワーク応援センター」に応募。センター職員は「人の役に立ちたい」という林さんの思いを生かせ、対応もできそうな今の仕事につないだ。◆「長時間あれもこれも」じゃなく「この職務を短時間で」
センターには、障害や難病のため短時間の就労を希望する約130人が登録。うち、33人がこども園でのおもちゃの消毒や、図書館で本を棚に返す業務、ホテルでシーツをはがす作業などを担う。仕事は「長時間職場にいて、あれもこれもする」ものでなく、職務が明確に定義され、勤務時間も1時間~数時間と短いものばかり。こうすることで、長時間勤務には自信が持てない人も働きやすくなる一方、人手不足に悩む中小企業も助かる。 同市は、2022年度にセンターを開設。センター職員は、市内の企業を回って、こうした雇用を“開拓”し、超短時間の仕事を求める人とつなぐ。求人を出す企業の多くは、法的には障害者雇用の義務がない中小の事業所。これまで接点がなかった障害者を雇用することで、地域での障害に対する理解を促進する狙いもある。◆東大・近藤武夫教授が提唱「今後の課題は予算の確保」
この仕組みは、東京大先端科学技術研究センターの近藤武夫教授が提唱。現在、川崎市や神戸市など7自治体が取り組む。近藤教授は「3、4の自治体から事業を始めたいとの声はいただいている」といい、さらに広がりそうだという。 超短時間で働く人には長年、障害福祉サービスの一つ、就労継続支援B型事業所を利用してきた人も。岐阜市の美容室「イーコレクションホーム」で週1日1時間、店内の掃除を担当する男性(38)もその一人だ。男性は「仕事は楽しいし、やりがいもある」。精神障害があるが、職員と信頼関係の築けているB型事業所に通い、居場所を確保しつつ、美容室でも働く。 一般企業での就労と、働いた対価として「工賃」を受け取るB型事業所の併用は長年、取り扱いが不明確だった。だが、国は3月、企業で働く時間が週10時間未満なら併用して構わないとの見解を初めて示した。近藤教授は「B型に所属しながら、超短時間雇用を試せることが明確になった」といい、事業には追い風という。 課題は、自治体が支援するための予算の確保。「今取り組んでいる自治体は、熱意があって予算をつけられる中核市以上の自治体。事業化したい中小の市町村を県や国が支援する仕組みが必要」と近藤教授は訴える。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。