初閣議後、記念撮影に臨む石破茂首相(前列中央)と閣僚ら=1日、首相官邸で
それもそうだろう。20人いる大臣のうち、女性は2人のみ。副大臣と政務官も合わせた74人でみても女性は4人にとどまった。74人中4人。ため息も出ない。◆「社長さん」「お医者さん」の絵は、迷わず男性だった
私は将来の夢がコロコロと変わる子どもだった。幼稚園の時は幼稚園の先生、小学校に入ったら小学校の先生。アイスクリーム屋さんに憧れた時期もある。どれも幼い私の目に映る景色の中で女性がやっていた仕事だ。 私が首相としておぼろげながら覚えているのは村山富市さんや小渕恵三さん。女性が首相になれるなんて思いもしなかった。社長さんやお医者さんの絵を描けと言われれば、迷わず男性を描いていた。◆女性の力を奪うメッセージにあふれた社会
女性が重要な地位についていないのは、単に女性にその力がないからだという声が根強い。そのような声に触れるたびに、私たちの前で日々繰り広げられる光景が小さな「ディスエンパワメント」(エンパワメントの対義語、その人の持っている力を奪うこと)の積み重ねであるということが、一体どうやったら伝わるのだろうかと途方に暮れる。(写真はイメージです)
男性の同僚と一緒に打ち合わせに行ったら「秘書の方ですか」と言われること、メールでやりとりをしていた相手と初めて電話をしたら「男性かと思っていました」と言われること、小さな子どもを連れて社長業をやっている女性が「子どもがかわいそう」と陰で言われているのを聞いてしまうこと、「重鎮」の会議に女性がひとりもいないこと…。 東京医科大学医学部で女性が合格しにくいように入学試験の操作が行われていた件はあまりにも露骨な差別の例だが、「あなたはここにいるべきでない」「あなたの目指す先はこの先にはない」というメッセージは社会にあふれている。処世術としてそのメッセージを内面化し、夢を諦めたり、チャンスをつかみとることを躊躇(ちゅうちょ)したりする女性が多くいたとして、それは女性に力がないからではない。◆手に入れたい景色は自分で切り開くしかない。そう思った
かすかな希望は、それでも社会は確実に変わっているということだ。そしてそこには、迷いながらも景色を変えようともがいている人たちがいる。 私は2年前にピースボートの共同代表に手を挙げた。男性ばかり3人だったところの4人目に加わる形となった。自分でも背伸びだとは思ったけれど、自分が手に入れたい景色への一歩は、他に誰もいないのであれば自分で切り開いていくしかないと思った。ピースボート共同代表の畠山澄子さん
時を同じくして、朝日新聞の「天声人語」の筆者3人のうち1人が女性になったと知った。1世紀以上にわたる連載において初めての女性筆者だそうだ。比べるのは恐縮なくらい次元の違う話だが、大きな組織でも同じようにもがいている人がいるのかもしれないと、勇気をもらったのをよく覚えている。◆さまざまなカテゴリーに目を向けて
変わること、変えることには時間がかかる。そもそも女性も女性というアイデンティティーだけで生きているわけではない。機会不平等や差別をより本質的に理解するにはジェンダー以外にも人種、階級、国籍、世代など、私たちの経験を形作るさまざまなカテゴリーに目を向ける必要がある。 それでもここまでジェンダー不平等が目に余る社会に生まれ落ちたひとりの人間として、まずは女性を取り巻く景色を変えていきたい。 ◇ ◇ 〈世界と舫う〉 「舫(もや)う」とは船と船、船と陸地をつなぎとめること。非政府組織(NGO)のピースボートで、被爆者と世界を回る通称「おりづるプロジェクト」や若者向け教育プログラム「地球大学」などに携わり、船に乗って人々がつながる手助けをしてきた畠山澄子さんが、活動を通じて深めた見聞をもとに、日々の思いをつづります。畠山澄子(はたけやま・すみこ) 埼玉県生まれ。国際交流NGOピースボートの共同代表。ペンシルベニア大学大学院博士課程修了(科学技術史)。専門は核のグローバル史、科学技術と社会論。
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