◆時代は変われど「困難を抱えた生徒」に向き合ってきた
「都教委の考え方は全く教育的ではない」 今月上旬、豊島区内で開かれた抗議集会。1971年から35年間、夜間定時制の都立高校の教員だった多賀哲弥さん(78)はこう力説した。70年代の苦学生や集団就職者、80年代の中退者や暴走族、90年代の不登校経験者や障害者、外国籍の子どもたち。その折々に「困難を抱えた生徒」が入学してきたが、夜間定時制が常に進歩的に向き合ってきた自負がある。都教委に廃止計画の撤回を訴える多賀さん=東京都豊島区で
東京都の夜間定時制高校は92年以降の30年間で4割に減った。都教委の8月の計画案では、2016年に廃止方針を示した後も生徒募集を続ける立川、小山台に加え、桜町、大山、北豊島工科、蔵前工科、葛飾商業の5校の廃止が想定され、立川は来年度、他の6校は再来年度から生徒募集を停止するという。◆都教委の「ごまかし」
計画案では「(夜間定時制課程の)小規模化はホームルームや学校行事などが低調になり、教育効果が十分に得られない」とされたが、多賀さんは「一面的な見方、ごまかしだ」と喝破。「学校の基本は各教科を通じた学び。さまざまな高校で少人数授業を導入した都教委は、その効果を理解している。なぜこの点に触れないのか」と強調する。 「困難を抱える生徒というのは、何らかの理由で小中学校時代に学校を好きになれなかった。都立の夜間定時制は2000年ごろの実感で、生徒が100人、教員が10人だ。学校らしくなく、細かい校則もなく、全校で互いの顔と名前が一致し、固有名詞で呼び合えることが生徒の救いになる。数百人規模の学校では難しい。小規模校なりの意義がある」 都教委によると、現在の平均は生徒が55.2人、教員が14.3人という。 夜間定時制の廃止理由に「勤労青少年の減少」も挙がっているが、ここで言う「勤労青少年」は正社員などの一部の雇用形態に限定される。「家計の苦しさなどで生徒の7〜8割がアルバイトに励んでいる」と反論する一方、夜間定時制がチャレンジスクールなどと異なり、現在も勤労青少年の学校である点を「勤労を教育の片方の柱に据えて、人間として育つことを期待できる」と説いた。 「夜間定時制の歩みを振り返れば、生徒たちの最後の学び舎(や)であり続けてきたことは明白。余裕のある教育環境が実現し、誰もが学校で楽しく学べるようにならなければ、夜間定時制を求める声はなくならない」◆世代を超えた学びの場、守るべき価値
夜間定時制は、義務教育を修了できず夜間中学に通う高齢者らにとっても、重要な存在になるという。 元夜間中学教員で、市民団体「夜間中学校と教育を語る会」の沢井留里さん(73)は「『もっと勉強したい』というお年寄りにとって、通える高校は夜間定時制しかない。近所で、少人数で、20代以上の生徒が比較的多いためだ。多様な人々が集まり、おじいちゃん、おばあちゃんに傷ついた若い子が交じり、互いに話を聞く。教育効果は非常に高い」と訴えた。 全国で夜間定時制の廃止や統廃合は進むが、大規模な反対運動が起きているのは東京、神奈川といった首都圏が目立つ。法政大の児美川孝一郎教授(教育学)は「対象地域ごとの説明会などが不足している。教育へのアクセスが最も困難な人たちが通う学校を数の論理で強引に、機械的に進めてはならない」と話す。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。