鳥取県岩美町に「優しい漁業」を目指す養殖場がある。育てるのは自社ブランドのサバ。井戸掘削会社が本業の技術を生かして進出、陸上の水槽で手がける。携わる従業員3人はいずれも女性。長時間、重労働という漁業の「常識」を覆し、持続可能な形態で活路を見いだしたい―。願いを込めて、11月ごろの本格出荷を目指す。(共同通信=白石初音)
鳥取市に本社のあるタシマボーリングは、井戸や温泉を掘るのが事業の中核だ。加えて、地下からくみ上げた海水を使う「かけ流し式」の陸上養殖施設整備も請け負う。JR西日本がサバの養殖を鳥取で始めた際に調査を担当したのが縁で、3年前に事業を引き継いだ。水産高校で学び、いつか漁業に携わりたいと考えていた田島大介社長(54)にとって、願ってもない話だった。
育てるサバは2種類。JR西から受け継いだ「お嬢サバ」と、新たなブランド「べっぴんサバのさばみちゃん」で、直径8メートルの水槽9基の中で計約4万匹が泳ぐ。刺し身で食べられる品質の高さが売りだ。
田島さんは養殖を通じて、気候変動による漁獲量低下や、不規則な生活が原因の担い手不足といった、漁業が抱える問題の解決を見据える。
養殖のためくみ上げた海水は常時約20度で、気候に左右されない安定した環境が整う。海上と違い、食中毒の原因となる寄生虫が付く心配もない。餌にはビール製造過程で出るユズの搾りかすも活用する。
サバ漁は夕方から明け方に行われるが、養殖場の出勤は午前8時で一定。20代の社員は「力仕事で難しい、という作業工程もない」と話す。
田島さんは「おいしい魚を生産するために、環境や働き方を度外視するのは本末転倒だ」と強調。育てたサバの全国への出荷を通じて、持続可能な漁業としての陸上養殖浸透にも期待している。
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