<シリーズ 検証マイナ保険証> 現行の健康保険証の廃止により、病院や薬局での保険資格の確認方法が8通りに増える。マイナ保険証では対応できないケースが次々と明らかになり、弥縫(びほう)策を重ねたためだ。 取り扱う書類が増え、誤って作成する役所も相次いでいる。制度のほころびを取り繕うために、かえって手続きが複雑になり、国民の混乱を招いている。(福岡範行)

7日の衆院本会議で、マイナ保険証の一本化について答弁する石破首相=国会で(佐藤哲紀撮影)

◆石破首相が保険証廃止を語った日に…

「不安の声に丁寧に対応する必要がある」 7日の衆院本会議。石破茂首相はこう発言した上で、12月の保険証廃止の堅持を表明した。 不安の払拭に活用すると持ち出したのが「資格確認書」だ。 同じ日、川崎市は資格確認書を現行の保険証と取り違えて印刷し、561人に誤送付したと発表した。

◆見た目そっくり、川崎や静岡で取り違え

保険証と見た目がそっくりだったことで起きたミスだった。 資格確認書は8通りの確認方法の一つ。マイナ保険証を持っていない人に、代わりに交付される書類で、現行の保険証が廃止される12月2日以降に届く。記載される内容は、保険証とほぼ同じだ。 川崎市医療保険課によると、システム改修を最小限にするため資格確認書の様式を、現行の保険証と統一。印刷する台紙を入れ替えるだけで切り替えられるようにした。 ところが、業者が、本来なら保険証の台紙を納めるところ、誤って資格確認書の台紙を納品。受け取った印刷業者も気づかず、名前や生年月日などを印字して発送したという。

誤送付された資格確認書(川崎市提供)

送るはずだった保険証(川崎市提供)


川崎市の担当者は「色も形も一緒なので、委託先の印刷業者が気づくのは厳しかった」と釈明した。 同様の取り違えは8月、静岡市でも起きており、こちらは916人に誤って送付していた。

◆マイナ保険証トラブルに「紙」で対応

資格確認には「資格情報のお知らせ」という書類を使うケースもある。例えばマイナ保険証がトラブルで使えないときだ。 マイナ保険証では、いまだにカードリーダーの不具合などで読み取れないトラブルが後を絶たない。 マイナンバーカードは保険証と異なり、券面には保険の情報が書かれていない。カードリーダーで情報を読み取れないとき、券面で確認する証明書類として、資格情報のお知らせを使うことを想定している。

中小企業の社員や家族が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)から加入者に届いた資格情報のお知らせ(一部画像処理)

現行の保険証を存続するならば、必要のない「紙」の書類だ。

◆「資格情報のお知らせ」知らない人9割

複雑になる仕組みに、国民の理解が追いつかない。 東京新聞など18の地方紙が8月に実施した合同アンケートでは、資格情報のお知らせの存在を知っている人は1割未満に過ぎなかった。 すでに配布が始まっている資格情報のお知らせは、会員制サイト(SNS)で「何に使うの?」という投稿が相次ぐ。資格確認書と混同している人もいる。 ほかにも、マイナ保険証が使えない場合、マイナンバーカードの専用サイト「マイナポータル」の画面や、「被保険者資格申立書」という書類で証明する方法がある。 暗証番号の管理が難しい高齢者らのために、暗証番号なしの顔認証マイナカードもできた。 大阪府の70代女性は、こう訴える。 「書類ばかり増え、どこが便利になるんですか。紙の保険証を残せば問題ないのに」

健康保険の資格確認 病院や薬局で、患者が加入している健康保険の情報を確認すること。医療費の請求先や窓口での負担割合を確かめる。
マイナ保険証はカードリーダーを使い、保険資格が登録されているシステムから情報を呼び出す。機器の不具合などで資格確認ができないと、いったん窓口で医療費が10割負担となるケースがある。政府が対策を講じた結果、確認方法が増えていった。

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