◆白浜5億円、宮崎は3億円の損失…「責任丸投げか」
「損失への補償もなく、全責任を丸投げされている気分だ」 高知県旅館ホテル生活衛生同業組合の西谷進事務局長は不満を口にした。組合によると、全体で約1億7500万円の売り上げ減少の影響が出た。 他に和歌山県白浜町の組合で約5億円、宮崎県は約3億円など、各地の旅館業者に影響が出たとされる。8月15日、海岸の入り口に掲げられた「禁止」と書かれた旗=神奈川県平塚市で
WGは自治体や運輸、観光、小売り事業者などに対し「情報はわかりやすかったか」「計画通りに対応できたか」などをアンケートで把握する。だが、損失額の集計調査はしない。WGをまとめる福和伸夫名古屋大名誉教授は理由を「今回はまだ情報が周知されていなかった。認知が進んだ次回の反応を見ないと経済損失の議論は難しい」と説明する。◆旅行関連の消費動向「簡単に計算できる」
内閣府防災の担当者も「キャンセルの理由が、観光地などの事前対策が十分でないことが原因なのか、大きな地震後だから不安だったのか、調査では調べ切れない」と説明した。 災害による被害額は通常、内閣府の経済財政分析担当が出す。東日本大震災や熊本地震、能登半島地震では被害額を出した。担当者は「慣習として地震の影響を試算するのは震度7以上」とし、臨時情報の影響を試算する予定はない。8月8日、気象庁で記者会見する南海トラフ地震の評価検討会の平田直会長㊧
野村総研エコノミストの木内登英(たかひで)氏は、臨時情報によって旅行関連消費に1964億円の影響が出ると試算した。「倒壊した家が何軒かなど調査を積み上げて計算するミクロの試算は難しいが、旅行の消費動向などによるマクロの推計なら簡単にできる」という。◆「マイナスの把握」が検証のポイントなのに
その上で「臨時情報の発表にも、不安による行動抑制や風評被害などがある。潜在的なマイナス効果を押さえるのは、検証の大きなポイントだと思うが…」と政府方針に首をかしげた。 関西大社会安全学部の林能成(よしなり)教授(地震防災)は、経済的損失を出すことに後ろ向きな政府を「施策が結果的にどれだけ迷惑をかけたのかネガティブな情報は出したくないということだ」と批判。「自治体や事業者側自身が連携し、自ら総被害額を出さないと実態はつかめない」と指摘した。南海トラフ地震臨時情報 駿河湾から日向灘沖の海底に延びる溝状の地形(トラフ)沿いで、巨大地震発生の可能性が平常時に比べて高まった場合に気象庁が発表する。想定震源域でマグニチュード(M)6.8以上の地震を観測するなどした場合、有識者の検討会が地震の規模を精査する。M8以上と評価されると「巨大地震警戒」が発表され、沿岸住民らは事前避難を求められる。M7以上だと「巨大地震注意」が出る。今回は「巨大地震注意」が8月8日〜同15日に呼びかけられた。
◇◆「防災意識向上の効果」にも疑問符
臨時情報の発表に伴う経済的損失というマイナス面の実態は、あいまいなままだ。しかも、プラス面であるはずの国民の防災意識の向上という効果に疑問を抱く専門家もいる。 臨時情報発表直後、ネットアンケートを実施した関谷直也・東京大大学院教授(災害情報)によると、注意呼びかけ対象の地域に住む4649人のうち「実際に地震が起きると思った」と答えた人は全体の7割超。水や食料の備蓄の確認をした人は約2割で、家具転倒防止や家族との連絡方法などの確認をした人はいずれも1割を下回った。◆「何か情報が出る」誤解を招く懸念
「多くの人が情報を誤解して、過剰に恐れる半面、一番やってほしかった防災行動にはつながっていない」と、発表の効果が低かったことを指摘する。 政府は臨時情報が出た後、何も起きなくても「空振り」ではなく「素振り」と捉え、防災に励むことを促す。今回の国民の行動を「比較的冷静だった」と評価。ただ、関西大の林能成教授は「冷静だったわけではなく『見送り』したのでは」と冷ややかだ。 臨時情報「注意」の根拠は、マグニチュード(M)7の地震後にM8以上の地震が起きた例が世界で1437回中6回(0.4%)だったとする統計。名古屋大の鷺谷威(さぎやたけし)教授(地殻変動学)は「統計を逆に捉えればM8の地震の99%は前触れなく起きる」とし、懸念する。「地震の頻度を考えると数年に1度は臨時情報が出るだろうが、大きな地震前には何か情報が出るという勘違いから防災への油断が生まれないか心配だ」 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。