ミャンマー東部のタイ国境付近の一部地域に中国人組織が流入し「犯罪特区」(地元住民)を形成している。内戦状態で中央の統治が及ばない事情につけ込んで特殊詐欺の拠点を設け、偽の求人で集めた人を組織的に強制労働させる。カジノ運営や売春も横行。協力関係にあるミャンマーの少数民族武装勢力が地区を管理し、関係者以外は立ち入れない。(共同通信バンコク支局 伊藤元輝)
▽奴隷
タイと国境を接するカレン州のシュエココ。約1年前に移住した美容師のミャンマー人男性が内部の様子を証言した。点在する中国人流入地区の一つで、タイ北西部メソトからビルのネオンを確認できる。
男性は詐欺拠点のビルに定期的に呼ばれ、強制労働の被害者とみられる人の散髪を担当。「元気がなくて、常に紙たばこのようなものをくわえて歯ぎしりをしている。かわいそうだ」と語った。
普段勤務するのはビルの外にある美容室。犯罪組織のメンバーとみられる中国人と、売春婦の若い女性が散髪に来る。「住人は中年男性ばかりで、夜には女性が街にずらりと並んで客を取る」。ビルにはカジノがあり、違法賭博客も訪れる。タイ側から川を渡るルートがある。
米平和研究所の2024年5月の報告書などによると、中国の犯罪組織が偽の求人を出し、タイに来た求職者をミャンマー側に拉致している。監禁し「奴隷」としてハッキングやロマンス詐欺に従事させ、反抗すれば拷問する。詐欺被害は中国や米国など各国に拡大中だ。
▽氷山の一角
中国と国境を接する北東部シャン州やラオスなどでも犯罪拠点の存在が指摘されている。2024年8月にはカンボジア南東部で働かされていたとみられる日本人12人が、現地警察に保護される事件も発覚した。
ミャンマーでは2023年の詐欺収益が153億ドル(約2兆1千億円)に上ったとされる。2021年2月の政変以降、国軍と民主派や少数民族勢力の戦闘が続き、タイ国境沿いは主に少数民族武装勢力が支配。その中で「カレン民族軍(KNA・旧BGF)」は中国の犯罪組織と協力関係にあると言われる。
KNAはシュエココに検問所を設け武装兵士を配置し、関係者以外の立ち入りを禁じる。美容師の男性の通行書類には危険物の持ち込み禁止などの規定が列記され、滞在期間も定められていた。ミャンマー人の外出許可は比較的下りやすく、取材にはタイ側で応じた。
中国政府もこうした状況を問題視しており、中国と接するシャン州では2023年末以降、当局の合同捜査により、拠点の摘発と強制労働の被害者解放が相次いだ。ただ摘発は氷山の一角とも指摘されている。
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