石川県能登地方の記録的豪雨では、東京ドームおよそ200個分に相当する約950ヘクタールの農地が冠水し、田畑が破壊されたり、収穫前の稲が泥水に漬かったりした。元日の能登半島地震に続く被害に、農業従事者からは「気持ちが折れかけている」などと悲痛な声が上がる。(高橋信、谷口大河)

◆農機具が水没、あぜや水路にも被害

 珠洲市上戸町で農業法人「すえひろ」が手がけていた田や畑には、土砂や流木が大量に堆積。「あの辺が全部田んぼだった」と近くの住民が指さす先に、その面影はない。

豪雨で水をかぶった、すえひろ本社前の水田=9月21日、石川県珠洲市若山町で(政田将昭さん提供)

 地震前、水稲を115ヘクタール作付けする計画を立てていた。地震で水路が壊れたり田が地割れしたりし、83ヘクタールにとどまった。秋に3分の1を収穫し、今度は豪雨。残っていた稲に被害が出た恐れがある。刈り取りできるかどうかは収穫用の機械を使ってみないと分からず、コメの品質も収穫してみないと分からない。  ドローンやトラクターといった機械も水没した。あぜや水路なども被害を受け、作業再開の見通しは立たない。従業員の政田将昭さん(49)は「冷や水を浴びせられた」と話し、末政博司社長(65)は「心が半分折れとる」とこぼした。

◆地震で作付け5分の1に減らしていたのに

 輪島市や能登町でも収穫前の稲が倒れた。川の氾濫で流木だけでなく、ごみや家具などが流れ込んだ田が目立つ。市内で稲作する「のと栄能ファーム」の山下祐介代表(38)は「離農を選択肢の一つに考えざるを得ない」と悔しそうな表情を浮かべた。  今年10ヘクタールの作付けを予定していたが、地震で農機具が壊れ、ため池も損傷し、5分の1に減らした。生育は例年通り。だがコシヒカリの2回目の稲刈りを予定していた9月21日、豪雨に見舞われた。

稲が倒れ、ごみが散乱する田を見つめる山下祐介さん=9月28日、石川県輪島市町野町で

 結局、今年の収穫は予定の半分ほど。2016年に就農したが、来年の田植えができるか、確信が持てない。耕作自体が難しく「流木やごみ、石や泥も除くには、多くの人の協力が必要」と訴える。  出荷前の6トンのコメが水浸しになった知人もいて、山下さんは「周囲の農家も気持ちが折れかけている」と明かす。能登の里山里海が世界農業遺産に認定されていることに触れ「奥能登の農業の運命は行政の対応で決まる。中途半端に支援するなら、認定を返上してほしい」と語った。 

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