詐欺や窃盗といった犯罪で得た収益であることを隠すために、暗号資産が使われ、口座から口座へと移動を繰り返す資金洗浄(マネーロンダリング)への対策が急務になっている。被害者や犯行グループの口座を特定するため、警察庁は来年度から暗号資産の動きを追跡できるツールを活用する方針だ。

 被害が拡大しているSNS型投資詐欺やロマンス詐欺では暗号資産をだまし取られるケースが相次ぐ。今年のSNS型投資詐欺の被害は8月までに4639件あり、暗号資産が詐取されたのは459件。ロマンス詐欺は2229件のうち394件だった。被害者から現金をだまし取ったケースでも、途中で暗号資産に換えられて資金洗浄されることは少なくない。

 広島県廿日市市の40代の会社役員の男性が被害に遭ったSNS型投資詐欺事件。SNSで知り合った人物から「金でもうかる話がある」と誘われ、4カ月間で16回にわたって計1億1789万円分の暗号資産をだまし取られた。このように犯人側が被害者と数カ月間やり取りし、複数回にわたってだまし取る手口は多い。

 暗号資産交換業者は、短期間で頻繁に多額の取引があるなどの犯罪収益の可能性がある「疑わしい取引」を把握すれば、国に届け出ている。警察庁は、追跡できる分析ツールを活用して「疑わしい取引」から口座をたどり、被害者や犯行グループの口座を特定させたい考えだ。同庁は「被害を早期に食い止めるとともに、摘発にもつなげたい」と話す。

 昨年1年間で「疑わしい取引」の届け出は暗号資産交換業者から1万9344件。届け出件数は5年間で3.2倍に増えた。警察庁は分析ツールのライセンス費用として、来年度予算の概算要求に1100万円を盛り込んでいる。(板倉大地)

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