石川県能登地方を襲った豪雨で同県輪島市は最も甚大な損害を受けたが、住民が一晩安心して過ごせた場所もあった。同市深見町の旧深見小学校では、能登半島地震を機に備えることの大切さを再認識し、避難生活に適した環境を整えた。建物を管理するNPO法人の関係者は「まさかこんな水害が来るとは思っていなかったけど、やっておいて良かった」と振り返る。(上田千秋)

段ボールベッドが置かれた教室で、豪雨当時の状況を説明する坂井美香さん=いずれも石川県輪島市で

◆「何もなくて困った」地震の経験を生かす

 市中心部から車を北東へ15分ほど走らせると、3階建ての同校校舎が見えてくる。1階は調理室などがあり、2階と3階は解体業者の作業員らの居住空間になっている。大雨が降り始めた9月21日は朝から、自宅にいるのを不安に感じた周辺住民約15人が集まってきた。そうしたなか、彼らは調理室で作った食事を取り、夜は段ボールベッドで横になってゆっくり体を休めることができた。  校舎は10年前から、地域おこしなどの活動を続けているNPO法人「紡ぎ組」が拠点として活用してきた。元日の地震でも多くの住民が避難してきた。副理事長の坂井美香さん(56)も、自宅が中規模半壊し、自身も校舎で避難生活を送るようになったが「その時は何もなくて困った」と振り返る。

◆数十人が寝泊まり可能な態勢に

 坂井さんは、この時の経験から「どうせなら、今度何か起きたとしても住民が快適にいられる場所にしよう」と着想。水や食糧の備蓄を進め、近くの避難所で使わなくなった段ボールベッドや布団を持ち込み、発電機を置いた。他にも、近所の人が持ってきてくれた畳や布団が大量にあり、数十人は寝泊まり可能になっている。

使わなくなった風呂釜などを使って整備した浴室

 さらに山から水を引いて断水しても対応できるようにして、最近は地震後に造ったシャワー室を改良し、倒壊した家で使っていたボイラーと風呂釜を利用して浴室も整備。雨漏りしていた箇所も修理し、屋根の防水工事を行ったことが今回の豪雨で生きた。  同NPOは地震後、深見町復興協議会を組織。住民の意向を集約して今後の方向性を決めたり、イベントを開いて住民らが仮設住宅などから戻って来やすい状況をつくったりしている。坂井さんは「これからも、深見町の住民にとって安全な場所であり続けられるように努めていきたい」と語った。 

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