街の中で見掛ける「整骨院」の看板。医療である整形外科や、無資格でできる「整体」と患者が混同するなどとして、厚生労働省が設けた広告検討会で、いったん不可の方向となったが、土壇場で合意が覆され、存続することになった。同省の担当者も「一回まとまった結論を覆すのは異例」と言う展開で、「政策決定のプロセスをゆがめる」との批判が続出。いったい何のための議論だったのか。  国家資格の柔道整復師が骨折・脱臼や打撲・ねんざなどの外傷に施術をする「医業類似行為」。法的な告示では「ほねつぎ」または「接骨」で「整骨」は認められていない。だが、現実には多くの自治体が整骨院の看板で届け出を受理してきた。検討会では広告を規制するガイドラインを作り、整骨の表記は新規開設や看板のかけ替えでは認めない方向で合意していた。  表記の存続を求めていた日本柔道整復師会(東京)も、この方向性に異論を唱えなかった。だが最終盤で「全国の施術所の57.8%が整骨院を使っている」との調査や、独自に調べた歴史を根拠に、整骨の表記を認めるよう要望書を出し、再議を要求。結局、ガイドラインでは整骨の可否には触れず、表記は存続することになった。同省の担当者は「よろしくないが、当事者の団体が賛同しないままでは…」と困惑する。  「整骨院という名称は自分たちの手足のようなもの。業態そのものを表す」と、日本柔道整復師会の長尾淳彦会長は言う。不可の方向性を一度は認めたことには「会長が私に代わり、ちゃぶ台返しになるが再議を求めた」と説明。委員には政治の関与を疑う声も出たが、「圧力をかけたりしていない」と否定した。  ガイドラインはこのほか、「治療院」「クリニック」など医療機関と誤解する看板や「整体」「カイロプラクティック」などは不可に。「姿勢改善」「小顔矯正」「骨盤矯正」など効能を含む表記や、「美容」「交通事故専門」なども不可とした。患者の誘引が狙いとみられる広告だ。  柔道整復師の施術は肩こりや腰痛、筋肉疲労などは対象外だが、こうした慢性的な痛みの施術で保険請求する事例が多いという。健康保険組合連合会(健保連)によると、施術所に整体の看板も掲げて初回無料やクーポンなどで患者を誘い、柔道整復の施術をしたとして不正請求するケースも後を絶たない。委員からは「ルールが明確になった。後はどう実効性を担保するか」との声が上がった。  6年以上もかけた会議で得た一定の結論を、一つの団体の意見で白紙に戻した今回の広告規制。委員からは「検討会の責任が問われる」という声も出た。最終回の会議で、座長は「一番大事なのは国民の安全」と話した。柔道整復とよく混同される整体では深刻な健康被害も相次ぐ。現状維持で本当に安全を守れるのか。


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