10月にスイス・ジュネーブで実施される国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)の日本審査に合わせ、国内でさまざまなテーマに取り組む当事者団体もレポートを出したり、現地で委員に意見を伝えたりする。当事者らは、日ごろ感じている日本のジェンダーに関する課題を広く伝える貴重な機会ととらえている。

2016年のロビー活動の様子=スイス・ジュネーブで(DPI女性障害者ネットワーク提供)

◆「差別への認識が低い、国内の現状を訴えたい」

 障害のある女性らの権利擁護のため情報収集と発信をする「DPI女性障害者ネットワーク」からは4人が現地に赴く。ネットワーク代表の藤原久美子さん(60)は「女性であり障害があることでの複合的な差別への認識が低い、国内の現状を訴えたい」と話す。  前回の日本審査にも参加した藤原さんは「委員がとても熱心に資料を読み、話を聞いてくれるのが印象的だった」と振り返る。国内では最高裁が7月、障害を理由に不妊手術を強制した旧優生保護法を違憲とし、国に賠償を命じる大きな動きがあった。「国の対応は変わってきたと感じるが、積み残された課題は多い」と藤原さん。

DPI女性障害者ネットワーク代表の藤原久美子さん

◆「女性障害者の思いを伝えるには貴重な機会」

 「女性障害者が周りから出産を控えるよう言われたり、中絶を求められたりすることは今も少なくない。子どもを産み、育てている女性障害者へのバッシングもひどく、障害に応じた育児支援も自治体の裁量任せで不十分だ」  女性障害者が性被害を受けやすいのも深刻な問題。「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性や生殖について女性自身が決める権利)に立ち返る必要がある」と考え、委員らに当事者の思いを伝えるつもりだ。  現在のCEDAWの委員長は視覚障害のあるスペイン人の女性で「女性障害者の思いを伝えるには貴重な機会」ととらえる。ネットワークからは藤原さんのほか、聴覚や知的障害者、車いすユーザーが参加する。介助者5人が必要で費用がかさみ、支援も呼びかけている。(小林由比)

記者会見で発言する「Tネット」の木本奏太さん=24日、東京・霞が関の厚労省で

◆トランスジェンダー「自分の身体を自分のものとして」

 今年8月に発足した、トランスジェンダーの情報発信に取り組む「Tネット」は他の市民団体とともに国連にレポートを提出した。性的少数者への差別は、家父長的な日本社会で困難を抱える点で女性差別に通じるといい、当事者で共同代表の木本奏太さん(32)は「自分の身体を自分のものとして生きる権利が、トランスジェンダーからはまだまだ取り上げられている」と差別解消を訴えた。  トランスジェンダーを巡っては最高裁が昨年10月、戸籍の性別変更に生殖機能をなくす手術を求める性同一性障害特例法の規定を違憲としたが、いまだ法改正に至っていない。社会の認知が進む一方で、交流サイト(SNS)だけでなく街でも「男性が『心は女性だ』と言えば女湯に入れる」などのデマや当事者への誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)が広がっている。

◆ネットを信じて生じた不安や恐怖が、差別や暴力を引き起こす

 レポートは群馬大の高井ゆと里准教授の協力でまとめた。特例法の改正や、健康保持のために必要なホルモン療法への保険適用、差別をなくすための施策を進めることなどを求めた。高井さんはジュネーブにも赴く。  共同代表の野宮亜紀さん(60)は「当事者の実態を知らないまま、ネット情報を信じて生じた不安や恐怖が、差別や暴力を引き起こす。正しい情報を発信したい」と話した。(奥野斐) 

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