ファーストライトから25周年を迎えた すばる望遠鏡=ハワイ・マウナケア山で(国立天文台提供)

 国立天文台のすばる望遠鏡(米ハワイ島)が、初めて星の光をとらえる「ファーストライト」から25周年を迎えました。世界最大級の主鏡(口径8.2メートル)と多彩な観測装置を組み合わせ、この四半世紀で数々の科学的な成果を生み出してきました。来年2月からは、最新鋭の装置を使った新たな観測が始まります。これまでの歩みと、さらなる進化について上下2回に分けて紹介します。 (榊原智康)  すばるは、宇宙からやってくるさまざまな光のうち、可視光や赤外線を観測する望遠鏡です。世界には8メートル級の大型望遠鏡が複数ありますが、すばるの最大の特長は、視野を広く取れる望遠鏡先端の「主焦点」にカメラなどの観測装置を設置できることです。大きな主鏡による集光力と、広視野観測能力によって宇宙を広く深く探査できることが強みです。  観測開始直後から成果を上げたのが、遠くにある銀河の観測です。2003年には約128億光年、06年には約128億8千万光年など最も遠い銀河の観測記録を何度も更新しました。

◆正体不明に迫る

 主焦点に設置するカメラは、13年から新型の「HSC」が本格稼働し、大幅に性能が向上しました。HSCの画素数は約8億7千万で、視野は従来のカメラの7倍。一度に満月9個分の星空をより鮮明に撮影できるようになりました。このHSCを使って、国立天文台などの研究グループが進めているのが暗黒物質の分布図作りです。  暗黒物質は、宇宙にたくさんあるのに目に見えず触れることもできない正体不明の物質です。宇宙をつくる成分のうち、私たちが知っている陽子や中性子などの通常の物質は全体の5%にすぎず、暗黒物質はその5~6倍を占めると考えられています。残りは正体の見当もつかない暗黒エネルギーとされます。  暗黒物質は宇宙の初期に通常の物質を重力で引き寄せ、星や銀河が生まれたと考えられています。その分布が分かれば、星や銀河がどのように誕生し、増えていったのかに迫ることができるといいます。  直接見えないものの分布図をどう作るのでしょうか。国立天文台ハワイ観測所長の宮崎聡教授=写真=は「銀河の形のひずみを観測することで、暗黒物質の『濃淡』が分かります」と解説します。  宇宙空間に重い物質や天体があると、その大きな重力によって光が曲がる現象が起きます。これは「重力レンズ効果」と呼ばれるものです。暗黒物質は大きなかたまりがあると、その強い重力によって多数の銀河が集まってきます。かたまりの周りでは重力レンズ効果が生じ、背景の星空がゆがんで銀河がつぶれたように見えます。逆に、重力レンズ効果を調べれば暗黒物質がどこにあるかを割り出すことができます。  国立天文台などのグループは18年、2千万個以上の銀河の像を解析し、史上最大の暗黒物質の3次元地図を作ることに成功したと発表しました。グループの代表を務める宮崎さんは「分布図を作るには、広視野、高解像度、大口径という3要素がそろった望遠鏡を使わないとうまくいかない。すばるはこの三つがバランスよくそろっている」とし、この研究分野で世界をリードしていると説明します。

◆第二の地球探し

 私たちが暮らす地球は、宇宙の中で唯一無二の星なのでしょうか。天文学での最重要テーマの一つである「第二の地球探し」でも、すばるは大きな存在感を発揮しています。  地球からの観測では、大気の揺らぎが画像の乱れを引き起こします。すばるでは、大気の揺らぎを検出して補正する「補償光学装置」などの改良を続け、観測能力を高めてきました。09年に太陽系外惑星の直接撮像に成功。13年には、地球から約60光年離れた恒星を回る軌道で木星に似た惑星の姿をとらえました。

すばる望遠鏡が大気の揺らぎを極限まで補正し、撮像した系外惑星の画像。軌道の大きさの比較のため、木星の軌道を黄色の破線で示している(T.Currie/Subaru Telescope,UTSA)

 23年には、大気の揺らぎを極限まで補正することで新たな系外惑星を撮像したと米科学誌サイエンスに発表しました。この観測では、ただ惑星の姿をとらえるだけでなく、その質量と運動を精密に測定しました。第二の地球を見つけるための技術開発が着実に積み上げられています。

◆国際化の好循環

 すばるは、2000年から大学や他の研究機関などから観測の提案を募る「共同利用観測」を開始。国立天文台によると、23年までに共同利用した研究者は2万1031人。そのうち海外研究者は5493人。観測結果を基に書かれた論文は2881本に上ります。  「すばる望遠鏡で取ったデータを基にして、外国人の共同研究者とともに別の望遠鏡を使って、研究をさらに発展させようとするサイクルができてきている。すばるは、いい国際共同研究を広げる原動力になっている」と宮崎さんは強調します。「この25年で、日本の天文学の国際化が大きく進んだ。これからも成果を常に出し続けられるようにしたい」  ◇   「下」では新たな観測計画を紹介します。

<すばる望遠鏡> 国立天文台が約400億円をかけ、米ハワイ島マウナケア山頂付近の標高4100メートルに建設した大型光学赤外線望遠鏡。天体の光を集める能力は人の目の100万倍以上。分解能(どこまで細かいものが見えるか)は、視力に例えると千以上で、富士山頂に置いたコインを東京都内から見分けられるとしている。

◆老朽化対策が課題に

 ファーストライトから25年。観測装置は更新される一方で、運用を支える施設や設備では老朽化対策が課題になっています。  望遠鏡を覆うドームの開閉部のシャッターは動きに不具合が生じ、改修しました。しかし、現在でも強い雨が降った際などにはドームで雨漏りが起こっているといいます。また、2023年9月には鏡を支える装置の力のかかり具合を調べるセンサーに不具合が生じるなどのトラブルがあり、今年3月まで観測を見合わせました。  国立天文台の宮崎さんは「施設の補修は随時やっているが、雨漏りへの対応などはこれからやっていかないといけない」と話しています。


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