サタデーウオッチ9(9月28日放送)
SNSや動画発信の特徴は?
候補者はそれぞれどんな発信をしていたのでしょうか?
新総裁に選ばれた石破氏と、決選投票で争った高市氏、1回目の投票で3番目に票の多かった小泉氏についてみていきます。
石破氏は、座ってカメラを見据え、防災や地方創生など政策を訴える動画をテーマごとに投稿していました。そのうち安全保障についての動画では、改めて日本を守る決意について語っていました。
また政策面以外についても、好きな鉄道やラーメンについて紹介するショート動画も告示前に投稿して、アピールしていました。
選挙でのSNS戦略を調査、分析しているネットコミュニケーション研究所の中村佳美代表は、石破氏の動画の特徴を次のように分析します。
ネットコミュニケーション研究所 中村佳美代表
「ほかの候補がスマホを意識したショート動画を数多く投稿する中で、石破さんは尺の長い動画も投稿し、自身の政策や理念を発信していました。もし総裁になった場合に、イメージ像がつきやすくなるというねらいもあったのではないかと思います。ほかの候補と比べて深みのある議論ができていたのではないかと思います」
次に高市氏です。
初めてのライブ配信は17万回以上視聴されていて、趣味のバイクやハードロックなどについて、視聴者からの質問に答えていました。
また1分ほどの長さの短いショート動画も毎日、発信。「今日の一言」というタイトルでその日の選挙活動について振り返っていました。中国で、日本人学校に通う児童が刃物で襲われ死亡した事件に言及した動画などが、多く再生されていました。
高市氏は、9候補の中で最も多く動画が再生されていました。
続いて、小泉氏です。
インスタグラムとフェイスブックをうまく活用していたと中村代表が指摘する小泉氏は、短い言葉をテンポよく重ねて、改革姿勢をアピールする動画をインスタグラムにも投稿。
さらに今回の総裁選前にYouTubeのアカウントをリニューアルし、ポスター撮影の準備風景や、会見前の様子など、活動の舞台裏についても積極的に発信していました。
中村代表
「高市氏は前回の総裁選以降、継続して頻繁にネット発信を更新し、今回これだけ伸びたということだと思います。特に保守層の支持基盤に向けて政策や理念を丁寧に語る動画を届けようとしていました。また素顔がみえるような一面を描き出すなど、ショート動画も効果的に使い、ずば抜けて質の高いコンテンツを出していました。
また、小泉氏は以前からあったインスタグラムやフェイスブックのアカウントのフォロワーをさらに増やしたことや、ショート動画に取材対応の裏側など幅広いコンテンツを入れることでうまく活用していたと思います」
候補者9人全員がYouTubeを活用
今回の総裁選挙では、9人全員がYouTubeで動画を発信しました。
最初に立候補表明が行われた先月19日以降で投稿された動画の再生回数を見ると、最も見られたのは高市氏でした。
2番目が、小泉氏。最初に立候補を表明した小林氏は3番目、石破氏は5番目でした。
最も再生された高市さんの場合、1日あたりのYouTubeの再生回数は前回、3年前の自民党総裁選挙に立候補した時のおよそ2倍となっています。
候補者がYouTubeで発信した動画は、先月19日以降、およそ500本に上っています。
ネットで検索された候補者は?
ネット上での候補者名の検索状況も見ていきます。
こちらは、告示前日の11日から25日までの間に、インターネットで候補者名が検索された回数を示したグラフです。
どの候補に関心が集まったのかをうかがうことができます。
告示の12日に最も検索されていたのは小泉氏でした。
次いで、高市氏。前日に立候補会見をした上川氏と続きます。
今月18日以降は、高市氏の検索がほかの候補を上回るようになりました。石破氏の検索も後半にかけて増えていました。
今後の選挙でSNSの活用は…
今回、各候補が力を入れたネット動画の発信。
中村さんは、7月に行われた東京都知事選挙で候補者の動画の拡散が注目されたことでこれまで以上に各候補者が意識して活用していたのではないかと指摘し、今後の選挙戦はSNSなしで無党派層の支持を広げるのはますます難しくなっていくと話しています。
中村代表
「今回、各候補の個性やキャラクターに合わせて動画をつくられていました。ただ、上手な方となかなか苦戦されていた方では、分かれていたと思います。今回、再生回数の明暗を分けたようなショート動画は、端的に伝えるというメリットがある一方で、候補者の深い政策とかビジョンが伝わりづらいという側面もあり、意図が正確に伝わらず、一部の情報が切り取られたり、切り離されたりして拡散されることで有権者に誤解を与えるリスクも考えられます」
総裁選挙の投稿で関心を集めたのは?
ネット上では総裁選挙のどのような点に関心があったのでしょうか?
SNSのX上で「総裁選」ということばとともに投稿された政策や政治課題に関することばを集計した図がこちらです。
大きく表示されていることばほど、より多く投稿されていたことを表しています。
期間中、一番多く投稿されていたのは「裏金」でした。
政治資金収支報告書に不備があったことなど政治と金の問題について、候補者が言及を避けていたり、再調査に否定的な姿勢を示していることへの憤りの声がみられました。
また「中国」、「安全保障」、「外交」などといったことばも多く投稿されました。
今月18日に中国の日本人学校の児童が襲われた事件や、今月23日のロシア軍機による日本の領空侵犯などのニュースを受けて、外交・安全保障に関する投稿が増えていました。
また、後半に増えていたのが「災害」ということばの投稿です。
石川県能登地方での記録的な大雨による被害を受けて、総裁選挙よりも災害対応を優先してほしいといった書き込みが増えていました。
発言したことばを分析
では、候補者側の発信内容はどうだったのでしょうか?
候補者が動画でどんなことを語っていたのかを調べるため、NHKでは、総裁選挙に立候補した9人の候補が今月12日から24日にYouTubeに投稿した合わせて300本余りの動画を分析しました。
動画の字幕データに、注目した単語がどれくらい含まれていたかを調べたところ、「経済」が多く含まれていたほか、SNS上でも投稿が多かった「安全保障」「外交」を語る動画も多くみられました。
一方で、SNS上で数多く投稿されていた「裏金」や「統一教会」、そのほか「政治資金」や「パーティー」といった単語が含まれる動画はそれぞれ数本しかありませんでした。
これについて政治家のSNS発信のコンサルタントも務めてきた中村さんは「今回の総裁選挙の候補者のSNS利用は、あくまで自民党の党員票を集めるためのもので、そのため必ずしもネットから見えた国民の関心ごとにこたえていないのではないか」と指摘しています。
SNSと選挙 議論どう深めれば
今回の総裁選挙をめぐりSNS上には候補者だけでなく、支援者による投稿や動画も多く見られました。
しかし、なかには、特定の候補の言動や容姿をやゆするようなひぼう中傷や、過去の言動や政治思想について根拠が不確かなまま断定するような書き込みもみられました。
こうした現状について、ネット世論の実態を研究している立命館大学の谷原つかさ准教授は、SNS上の政治的な議論においては特にフェイクやひぼう中傷が発生しやすい傾向があると指摘しています。
立命館大学 谷原つかさ准教授
「英語圏で行われた研究では、政治関係のフェイクニュースやひぼう中傷はほかのジャンルに比べて拡散する速度が速いという研究結果があります。リーダーを選ぶ民主主義的なプロセスのなかで、フェイクニュースやひぼう中傷に人々の意識が影響されてしまうことは避けなければいけない」
今後行われる選挙において、SNS上でも議論が深めていくにはどうしたらいいのか、谷原准教授は次のように指摘しています。
谷原准教授
「SNSや動画のコメント欄に政治的な書き込みをする人は、そもそも全体のほんの一部であり、大多数の人は政治的な書き込みをしない実態がありますので、そこから情報を得るのであれば、事実と意見をしっかりと分ける習慣をつけることが有効です。また、候補者がネットでじっくりとみずからの政策を届けることは国民の政治リテラシーの向上につながると思いますが、ネガティブな感情をあおったり陰謀論のような主張で扇動するようなケースもあり注意が必要です」
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