2014年に御嶽山で起きた噴火は「水蒸気噴火」と呼ばれるタイプでした。マグマや火山ガスで水が熱せられ水蒸気となって噴出する現象で、マグマが直接関わらないため明確な前兆を捉えにくく、予測が難しいとされています。
火山噴火予知連絡会の清水洋会長によりますと、それまでの火山研究は1990年代の雲仙・普賢岳や、2000年代の伊豆諸島の三宅島など、マグマが直接関わるような規模の大きな噴火に重点が置かれ、気象庁による観測も「水蒸気噴火」に対して十分ではなかったということです。
こうした教訓からこの10年で研究が進み、熱水を粘土層が覆っている場合、粘土層が下からの圧力で破壊されると熱水が上昇しながら一気に気化し、「水蒸気噴火」につながるメカニズムも分かってきました。
一方で、どこで圧力が高まっているか把握できても、どのくらい圧力が高まると噴火するかは分かっておらず、正確に予測するのは難しいとしています。
このため清水会長は「噴火警戒レベル1でも、火口近くに被害を及ぼすような噴火はいつでも起こりうることを改めて認識してほしい」と話しています。
そのうえで「活火山に登る際はヘルメットを持参し、登るコースに避難できる場所があるか確認するほか、登山届の提出などを心がけてほしい」と呼びかけています。
生存者が見た「水蒸気噴火」
当時、御嶽山の山頂にいた女性は、爆風とともに噴煙が立ちのぼり大量の噴石が落ちてきたことなど、「水蒸気噴火」のようすを振り返りました。
千葉県に住む蕪木峯子さんは、2014年9月27日の朝に御嶽山を訪れ、昼前に山頂に着きました。山頂から火口を見下ろしていると、爆風を感じ、噴煙が見えました。このため、とっさに持っていたカメラで火口付近を撮影しました。
カメラは灰色の噴煙が立ちのぼるようすや、火口から飛び出した無数の噴石をとらえていました。その後、山頂にある神社の祈とう所に避難しました。
その際落ちてきた噴石がいくつか頭に当たりました。
蕪木さんはさい銭箱の横に腰を下ろし、背負っていたリュックサックで頭を守りながら降り注ぐ噴石に耐えていましたが、何度か大きな衝撃を感じたということです。
噴石は30分ほどで収まり、祈とう所の中に移りました。
その後、下山することができましたが噴火直後の噴石で頭に複数のけがをしました。
噴石のようすについて蕪木さんは「まるで高いところにあるミキサー車から砂利混じりのものが降ってきたという感覚でした。リュックサックがなければ命を落としていたと思います」と話していました。
気象庁 観測体制を強化
10年前の教訓から、気象庁は火山の防災情報を見直したり、全国の火山の観測機器を増やしたりしてきました。
防災情報については、当時、火口付近にいた多くの登山者が犠牲になったことを受けて、噴火したことをいち早く伝えるため「噴火速報」を導入しました。また、火山活動に通常と異なる変化があった場合は「臨時」と明記して解説情報を発表するようになりました。
噴火警戒レベルについても、当時御嶽山は「レベル1」で「平常」という表現だったため、「安全だという誤解につながる」などといった意見があがり、「活火山であることに留意」に表現が見直されました。
噴火に至るメカニズムは分かっていない点も
10年前の噴火は、前兆現象を把握し予測するのが困難でした。このため、気象庁は火山活動の小さな変化を捉えようと、全国の火山で観測機器を増やしました。
そのうえで、データを分析したり現地で観測したりする職員の数を噴火前の2倍近いおよそ280人に増やすなど、体制を強化してきました。
その結果、近年は
▽長野と岐阜の県境にある「焼岳」で山頂付近の膨張を示す地殻変動が捉えられたほか
▽岩手県の「岩手山」で微小な地震が増加していることが分かったとしています。
ただ、データが増えた一方で、噴火に至るメカニズムは分かっていない点も多く課題となっています。
気象庁の森隆志長官は「観測体制の強化でより細かい火山活動の変化を捉える事例は出てきたが、蓄積されたデータの適切な評価を今後の目標にしていきたい」と話しています。
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