自宅で過ごす袴田巌さん(手前)の顔をマッサージする姉のひで子さん(26日午前、浜松市、袴田さん支援クラブ提供)=共同

1966年に静岡県で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さん(88)のやり直しの裁判(再審)で、静岡地裁(国井恒志裁判長)は26日、無罪判決を言い渡した。確定死刑囚の再審無罪は「島田事件」以来35年ぶりで、戦後5例目となる。

検察側が控訴しなければ、事件から58年を経て袴田さんの無罪が確定する。これまでの4例は検察が控訴せず確定した。

国井裁判長は判決理由で「捜査機関による証拠の捏造がある」と認めた。

再審は2023年10月の初公判から約1年間、判決を含めて計16回に及んだ。長期収容による拘禁症状が残る袴田さんは出廷を免除され、代わりに姉のひで子さん(91)が参加した。

再審判決公判のため静岡地裁に入る袴田巌さんの姉、ひで子さん(左から2人目)ら(26日、静岡市)

確定判決が袴田さんの犯行着衣と認定した「5点の衣類」の評価が最大の争点となっていた。事件発生から約1年2カ月後、現場近くの工場のみそタンク内から見つかり、血痕の赤みが残っていたとされる。

弁護側は再審請求審で実施した実験結果などから、タンクの中にあった衣類に血痕の赤みが残ることはあり得ないと強調。袴田さんを犯人に仕立て上げるために捏造(ねつぞう)された証拠だとして、無罪を訴えた。

検察側も追加の実験や専門家の証言などをもとに、環境によっては赤みが残る可能性は否定しきれないと主張した。捏造の指摘は「非現実的な空論」と反論。袴田さんが犯人であることは揺らがないとして改めて死刑を求めていた。

袴田さんは確定前の裁判から一貫して無罪を主張してきた。死刑判決が確定した翌年の1981年に裁判のやり直しを求めたが、27年かかった1回目の再審請求審では認められなかった。

静岡地裁が2014年に初めて裁判のやり直しを認め、袴田さんは約48年ぶりに釈放された。最高裁の差し戻しなどを経て、23年3月に再審開始が決まった。

▼静岡県一家4人殺害事件 1966年6月30日未明、静岡県清水市(現静岡市清水区)のみそ製造会社の専務宅が全焼し、焼け跡から4人の遺体が見つかった。従業員だった袴田巌さんが強盗殺人などの容疑で逮捕、起訴されたが、公判では一貫して無罪を主張。80年、最高裁で死刑判決が確定した
袴田さん側が裁判のやり直しを求め、東京高裁は23年3月に再審開始を認めた。高裁決定は確定判決が有罪の決め手とした衣類について捜査機関による捏造(ねつぞう)の可能性に言及。検察側が最高裁への特別抗告を断念し、再審が始まった。

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