医療現場では、特定の地域や診療科に医師の数が偏り、地方の病院などで医師不足を引き起こす、いわゆる「医師の偏在」が深刻な問題となっています。
国はこれまで大学の医学部で卒業に一定期間、特定の地域での勤務を義務づける「地域枠」を拡大するなど、取り組みを講じてきましたが医療現場からはさらに強い対策を求める声が上がっています。
こうした中、厚生労働省は今月末から専門家を交えた検討会で、新たな対策を本格的に協議していくことになりました。
具体的には、開業医が多い地域での新規の開業を抑制できないかや、多くの病院を対象に、医師が少ない地域での勤務を院長など病院の管理者になる要件にできないかなどを検討する見通しです。
医師の偏在によって産科など一部の診療科を閉鎖したり救急体制を縮小したりする医療機関も出ていて、現場からは実効性のある対策を求める声が高まっています。
厚生労働省は年末までに議論をまとめたいとしていて、どこまで踏み込んだ対策を打ち出すかが焦点となります。
医師の偏在とは
医師の偏在は大きく分けて「地域の偏在」と「診療科の偏在」があります。
「地域の偏在」は東京や大阪などの都市部での勤務を望む医師が多く、地方の病院を希望する医師が少ないことなどから起きています。
これは専門的な医療技術を学びたいという希望や、あるいは、子どもの進学をはじめとした家族の事情など、さまざまな要因があります。
もう1つの「診療科の偏在」は外科や救急科、それに産科など夜間も含めた24時間体制が必要な診療科で、特に必要な医師を確保しづらくなっています。
これらの診療科は比較的、勤務時間が長く、若い医師の希望者が伸び悩んでいることが要因の1つと考えられています。
こうした偏在の状況を客観的に示すため、厚生労働省は「医師偏在指標」という数値を公表しています。
医療の需要や患者の流出と流入、それに医師の年齢や性別の人数などを踏まえて算出しています。
この医師偏在指標を各都道府県ごとに比較し、数値が低い16の県を「医師少数県」、数値が高い16の都府県を「医師多数県」としています。
ことし1月に公表されたデータでは、比較的、東日本に「医師少数県」が多く、西日本は「医師多数県」が多く見られます。
これはあくまで県全体の数値であり、その中でも医師の多い地域と少ない地域に分かれるほか、相対的な指標であるため、医師多数県で医師が余っているというわけではありません。
このほか、全国に300以上ある二次医療圏ごとに細かく区分けした場合の医師偏在指標や、個別の診療科で産科と小児科の医師の偏在指標も公表されています。
医師減少で「綱渡りの状態」の病院も
地方の病院の中には、医師の数が減り続け、いわば「綱渡りの状態」で地域医療を維持している所も少なくありません。
新潟市東区にある木戸病院は内科や外科など多くの診療科を設け病床数が300床を超える地域の中核となる病院です。
しかし、高齢の医師が退職する一方で新たな医師の採用が思うように進まず、常勤の医師はこの5年で53人から42人と11人減りました。
こうした中、2年前には産科を閉鎖せざるをえなくなりました。
担当医が定年退職し、新たな担い手が見つからなかったためです。
産科は50年以上続いた歴史のある診療科で、病院のスタッフの中にも木戸病院で生まれた人が数人いるということですが、継続が難しく「まさに苦渋の決断だった」といいます。
また救急科でも医師の確保に苦慮しています。
年間で2000人を超える救急患者を受け入れていますが、ことし4月に始まった医師の働き方改革で勤務時間がさらに制限され、より厳しさが増しているといいます。
病院では大学病院から医師を派遣してもらったり、東京からアルバイトの医師に来てもらったりして、何とかこれまでとおりの救急体制を維持していますが、綱渡りの状態が続いているといいます。
木戸病院の佐藤秀一院長は「何があっても地域医療を支えていくつもりだが、救急などはギリギリの状態で、大きな危機感を感じている。国には地方の実情を知ってもらい病院が存続できるような対策を講じてもらいたい」と話しています。
地方の医療機関でマッチング進まず
病院と医師とを結ぶマッチングを支援する就職情報会社には、地方の医療機関から多くの求人が寄せられていますが、なかなか就職に結び付かないのが現状です。
東京 千代田区にある就職情報会社「リクルートメディカルキャリア」は医師などの医療人材と全国の病院とを結ぶマッチングの支援を専門に行っています。
会社によりますと都心などにある病院は、求人を出すと数日で応募者が見つかる場合もありますが、地方の病院は求人を出しても1年以上、応募や相談すらないケースが珍しくないといいます。
医療機関にとっては、医師が減ると診療体制の維持が難しくなる以外にも患者の数が減って収入の減少につながり、経営がより厳しくなります。
地方の病院は医師を確保するため給与を引き上げたり家賃などの手当を厚くするところも多く、中には医師の住宅を用意する病院もあります。
また、遠方から通いで来る医師には勤務時間をずらすなどの配慮を行う病院もありますが、それでも医師の確保は容易ではないといいます。
リクルートメディカルキャリアの小熊智子さんは「医師は売り手市場で、都心部でも自分のキャリアとワークライフバランスがかなう医療機関が多くあるので、わざわざ遠方の病院まで行く必要がないという点が偏在の要因の1つだと思う。これをやれば必ず採用できるという解は無く、地方の病院では非常に厳しい状況が続いている」と話していました。
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