育児休業を延長するため、保護者があえて倍率が高い保育所に申し込む「落選狙い」を防ごうと、厚生労働省が来年4月から育休延長の審査を厳格化する。「不適切」な申請を減らし、自治体の負担軽減を目指すという。だが、乳幼児の子育てとの両立が依然厳しい労働環境などから、育休延長を望む保護者にとっては負担が増えることに不満が漏れる。育休制度のあり方を見直す議論を求める声も上がる。(奥野斐、原田遼)

 落選狙い 保護者が育児休業の延長に必要な書類を入手するため、倍率の高い保育所のみに入所希望を出すなどして意図的に内定しないようにすることを指す。現状では、育休は原則1歳未満の子を養育するために取得でき、期間中は雇用保険から賃金の50~67%の給付金が支給される。最長2歳まで延ばせる。


育休延長の手続き変更を知らせる厚生労働省のチラシ

◆国の方針に違和感

 「好んで落選しようとは考えていない。自宅から近く、安心して預けられる保育所に入れないだけなのに、『不適切』にみられるようで心外」  東京都世田谷区で9カ月の男児を育てる、育休中の女性会社員(39)は憤る。希望の保育所は応募が多く、入所は難しい状況。育休延長を考えているところだが、その選択を躊躇(ちゅうちょ)させるような国の方針に違和感を募らせる。  育児・介護休業法は、育休期間を原則として子が1歳になるまでとし、保育所に入れない場合などに限り、最長2歳までの延長を認めている。

◆問題視されてきた「保留通知」

 延長には、保育所に落選したことを区市町村が示した「入所保留通知書」の提出が必要。来年度からは通知書に加え、
(1)区市町村に提出した入所申込書のコピー
(2)延長を希望する理由の申告書
―の提出が求められ、ハローワークが延長の可否を判断する。厚労省は「速やかな職場復帰のために行われた申請と認められることが必要」とする。  そもそも「落選狙い」は、育休の延長に「保留通知」が必要な仕組みから起きる。2017年10月に国が育休を2歳まで再延長できるようにした当初から、問題視されてきた。  今回の見直しのきっかけは、内閣府に寄せられた自治体の要望だ。「窓口で『確実に保留になるためにはどうすればいいのか』などの相談に30分~1時間の時間が割かれる」「意に反して入所が内定した場合の苦情対応に時間を要している」との訴えがあった。

◆国もかつては落選狙いを容認

 一方、国は落選狙いを容認してきた。18年以降、区市町村から保留通知なしでも育休延長できる制度改正を求める声が上がったが、国は制度改正はせず、19年に落選希望の保護者の内定確率を下げる対応を自治体に示した。これにより、区市町村は育休延長を望む人の入所の優先順位を最下位にするなどしてきた。  この間、育休取得期間の長期化は定着。厚労省の雇用均等基本調査(23年度)によると、「1年以上」の育休を取得した女性は45.6%に上り、18年度の38.4%から大きく伸びた。

育休延長の手続き変更を知らせる厚生労働省のチラシ

◆「育休を延長したい理由はさまざま」

 保育園を考える親の会(東京)顧問の普光院亜紀さんは「育休は2年取れるものという認識が保護者に広まっているし、延長したい理由は子どもの発達に不安があったり、安心して預けられる保育所に空きがなかったりとさまざまだ。保護者が希望する期間で育休を取れる制度にすることが重要ではないか」と話す。  育休給付期間を2歳になるまでにすることを制度化する要望について、厚労省は「人員配置など労務管理の問題が生じて企業の負担になる」「家事・育児負担が女性に偏る現状では女性のキャリア形成が阻害される」と否定している。 

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