SNSやマッチングアプリなどを通じて直接会うことなく、金銭をだまし取る「ロマンス詐欺」。被害防止のため政府は、マッチングアプリ登録時にマイナンバーカードによる本人確認を行うよう業界団体に要請した。個人情報を事業者が取り扱うことや犯罪防止の効果には疑問の声が上がる。(山田祐一郎)

◆前年比倍以上、入り口はマッチングアプリが最多

 「マイナンバーカードを利用することによって、氏名、住所、生年月日、性別、顔写真といった券面情報のほかマイナポータル経由で既婚、未婚の別、年収などの情報についても、信頼性高く確認ができ、より安心して婚活が可能となる」  今月13日、河野太郎デジタル相は会見で、デジタル庁と警察庁の連名でマッチングアプリ事業者が所属する団体に要請したことを明らかにした。

記者会見でマッチングアプリの登録時のマイナンバーカード利用を訴える河野太郎デジタル相=13日

 警察庁によると、今年1~7月のロマンス詐欺の認知件数は前年同期よりも1066件多い1868件。被害額は113億9000万円増の198億8000万円に上る。被害者に最初に接触したのはマッチングアプリが最多となっている。  デジタル庁は、マッチングアプリのアカウント開設時にマイナカードによって「より厳格な本人確認が可能となり、不正防止につながる」と説明。今年8月から戸籍関係情報とマイナポータルが連携したことで、本人が同意すればアプリ事業者が独身証明書や所得証明書の情報取得が可能だという。これらの情報は「事後の犯罪捜査や被害回復にも資する」と強調する。

◆個人情報を提供することに抵抗がある人も

 要請を受けた業界側の反応はどうか。アプリ事業者でつくる一般社団法人「結婚・婚活応援プロジェクト」は「参画企業に要請内容を共有する。マイナカードによる本人確認の選択肢を増やすことは、利用者の便益向上に資する」と説明する。個人情報の取り扱いについては「参画企業が引き続き、個人情報保護に最善を尽くす」と回答した。  一方で詐欺被害の防止効果については懐疑的な声も。業界関係者は「全ての利用者がカードを所持しているわけではないし、所持していても個人情報を提供することに抵抗がある人もいるはずだ」と話す。

マイナンバーカード(資料写真、一部画像処理)

 政府は今年6月に取りまとめた「国民を詐欺から守るための総合対策」で、携帯電話契約や口座開設とあわせて、マッチングアプリの本人確認の場面でマイナカード活用を事業者に呼びかけた。「詐欺防止を名目としたマイナカードの普及策でしかない」と指摘するのはマイナンバー制度に詳しい清水勉弁護士だ。「すべての本人認証をマイナカードで行え、というのであれば民間事業への不当な介入だ。本人確認の一つの方法とするだけなら、犯罪組織がマイナカードを使って本人確認するわけがなく、詐欺の防止にならない」

◆「個人情報を盗もうとする詐欺師は、あらゆる手段を使う」

 ITジャーナリストの星暁雄氏は事業者が個人情報を取得できる点を問題視する。「マイナカードによる公的個人認証は信頼性が高い個人情報を扱う。これらの情報が事業者のシステムから漏洩(ろうえい)する危険は本当にないのか」。2015年には海外の不倫目的のマッチングサイトで3000万人以上の個人情報が盗まれてネット上で公開された事例もある。「マッチングアプリ事業者に悪意がなかったとしても、システムに重大な不備があれば情報が流出して利用者の尊厳を損なう事態に至る可能性がある」と危ぶむ。  その上でこう強調する。「マイナカードは本人確認の手段のひとつにすぎない。一方、個人情報を盗もうとする攻撃者や詐欺師はあらゆる手段を使う。マイナカードをあたかも詐欺や個人情報盗難など犯罪を防ぐ決め手であるかのように宣伝することは、人々の警戒をゆるめ、逆に被害を増やしかねない」 

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