地球深部探査船「ちきゅう」。船首の屋根状の構造はヘリコプターデッキ=静岡市の清水港で

 東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)から13年半。地震を起こした仕組みについて残る謎を解明しようと、震源断層のある宮城県沖約200キロで今月、海洋研究開発機構(海洋機構)の地球深部探査船「ちきゅう」による掘削調査が始まりました。震源断層が時間の経過とともにひずみをためて、次の巨大地震に向けて準備を進めているかなどを明らかにすることで、将来的な減災を目指します。 (増井のぞみ)

◆国際深海科学掘削計画の一環 10カ国の研究者らが参加

 出航前日の今月5日、静岡市の清水港で、ちきゅうの船内が報道各社に公開されました。全長210メートル、幅38メートルの船の中央に、掘削するドリルパイプを組み上げる高さ約70メートルの青いやぐらがそびえます。巨大な船の中を移動するのは大変です。乗船して7階分の階段を上り、やぐらの足元に着きました。

ドリルパイプを組み上げるやぐら。ヘリコプターデッキから撮影=静岡市の清水港に停泊する「ちきゅう」で

掘削フロアのドリルパイプ(左)。1本約10メートルのドリルパイプを縦に4本つなげて約40メートルにし、立てかけている=静岡市の清水港に停泊する「ちきゅう」で


 今回の掘削調査は、国際深海科学掘削計画(IODP)の一環です。12月20日まで106日間、日米欧など10カ国の研究者56人が交代しながら乗船します。同じエリアの掘削調査は震災1年後の2012年以来12年ぶりです。  日本海溝を挟んで陸側で震源断層を、その後海側で沈み込む前の地層を24時間体制で掘削し、力のかかり具合や強度などを調べます。いずれの地域も水深約7千メートルで、陸側は海底下950メートル、海側は同450メートルまで円柱状の地層を採取します。総費用は39億円です。

◆技術的挑戦

 陸側の掘削は、パイプを科学掘削史上最長の約8千メートルつなぐ「技術的挑戦」だといいます。北上している黒潮の速い流れもやっかいです。12年前にちきゅうで掘った穴にパイプを入れるのが「みんながピリピリするタイミング」(海洋機構)でしたが、10日には、水深約7千メートルの穴にパイプをつなげて温度計を設置しました。

2012年に掘削した水深約7千メートルの穴に9月10日、ちきゅうからのドリルパイプを接続する様子=水中カメラで撮影 ©海洋機構/IODP

 東北地方太平洋沖地震では地震が起こらないと考えられていたプレート境界の断層の浅い所が50メートル以上も滑って、マグニチュード(M)9.0を観測し、最大40メートルの津波を起こしました。  前回の調査では、震源断層の陸側の海底下約850メートルまで掘削。その結果、震源断層の約8割は細かい粒の粘土ででき、バナナの皮のように滑りやすかったことが分かりました。震源断層は周囲より0.3度ほど高い温度でした。地震で発生した摩擦熱によって温度が上がり、粘土に含まれる水を膨らませて滑りが加速したと考えられました。今回は、12年たって摩擦熱がどれだけ冷めたかを調べます。温度からは、地下で熱を運ぶ水の動きなどが推定できるといいます。

◆浅い所

 震源断層では、海側の太平洋プレートが陸のプレートの下に毎年8~10センチ沈み込んでいます。東北地方太平洋沖地震では震源断層の深い所が固着していて、陸のプレートにたまったひずみが限界を超え、跳ね上がって起こったとみられます。しかし、断層の浅い所も固着していたのか、それとも固着しておらず破壊した深い所の動きに合わせて一緒に動いたのかが分かっていません。  今回の掘削計画の立案には、広瀬丈洋・海洋機構高知コア研究所長(構造地質学)が関わりました。広瀬さんは「引っ越しして板の間にテーブルを置いてからあまり時間がたっていなければ簡単に動かせる。しかし、10年後に動かそうとすると結構力がいる。時間がたつと、接触している所がめり込む固着が断層でも起こっている。プレート境界の断層の浅い所でも(地震を起こす)エネルギーを蓄えられる、つまり固着するのではないか」と仮説を立てています。  断層の浅い所も滑った東北地方太平洋沖地震を踏まえ、南海トラフ地震の想定震源域が12年に拡大されました。広瀬さんは「東日本大震災は南海トラフ地震の想定の見直しにもつながった。プレート境界の浅い部分での知見の蓄積が必要だ」と話します。  掘削調査の共同首席研究者である小平秀一・海洋機構理事(海域地球物理学)は「日本海溝で起こった地震の仕組みを解明し、その知見を南海トラフなどさまざまな地震発生帯での高精度なモデルづくりに生かしたい」と抱負を語ります。


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