「昔食べた甘くないトウモロコシの味が50年以上たっても忘れられません。どこかで手に入らないでしょうか」 福岡県宗像市の男性(62)から西日本新聞「あなたの特命取材班」に切なる声が届いた。甘みが魅力、とばかり思っていたが…。甘くないトウモロコシを追った。(西日本新聞・森亮輔)
甘くないトウモロコシ モチトウモロコシはかつて全国的に栽培されていたが、甘いスイートコーンが流通し始めた40〜50年前から徐々に姿を消したという。黒、紫、白と色とりどりの粒が特徴。地トウキビは熊本県・阿蘇地域の在来種。農家の保存食として栽培されてきた。
◆福岡で出会った「モチトウモロコシ」
男性が熊本市に住んでいた小学校1年生の頃。父親と車で出かけた阿蘇地域の道端の売店で焼きトウモロコシを買った。店の様子や風景の記憶は薄れたが、香ばしいしょうゆ味は、今も鮮明に覚えているという。 2年前の夏、宗像市の自宅近くの農産物直売所で見慣れないトウモロコシを買った。ゆでて食べると「あの味と似ている」。品名は「モチトウモロコシ」とあったが、その後見ることはできていない。「道の駅たちばな」に並んだモチトウモロコシ。開店から1時間ほどで3袋が売り切れた=7月20日、福岡県八女市(画像の一部を加工しています)
小学校教諭だった男性。給食の時、子どもたちが甘いものばかり好んで食べているように映った。「最近は何もかも甘くなる時代で耐えられない。食育上もよくないのでは…」。そんな時に思い出す、甘くないトウモロコシ。「あの香ばしいトウモロコシをもう一度、食べたい」◆ほとんど栽培されず、道の駅では争奪戦
大分県竹田市菅生の国道57号沿いは「トウモロコシ街道」とも呼ばれる九州有数の産地。「私らが子どもの頃はモチトウモロコシばかりでしたよ」。栽培の大ベテラン、卯野(うの)英治さん(75)は振り返る。コメが育たない地域で作っていたといい、現在はほとんど栽培されていないようだ。 しかし7月上旬、福岡県久留米市の「道の駅くるめ」のホームページに「もちとうもろこしの出荷が始まりました!」との文言が掲載されていた。 「人気商品ですよ」。同店の担当者が教えてくれた。今も多い年で5~6人が合わせて数百本ほど出荷するという。高齢者はもちろん「子どものかむ力を考えて買う若い人もいる」とか。購入予約を求める人もおり、「争奪戦」の様相だ。◆熊本・阿蘇で甘くないのは希少「地トウキビ」
熊本県阿蘇地域産の「地トウキビ」。かむほどに味わいがあるという(森繁博さん提供)
投稿者の思い出の地は熊本・阿蘇だった。阿蘇地域の農業関係者は異口同音に「こっちで昔の甘くないトウモロコシなら『地(じ)トウキビ』」と話す。 モチモチの食感と歯応え、かむほどに出る甘みと香ばしさが売り。特徴はモチトウモロコシと重なるが、地トウキビの粒は黄色。熊本県産山(うぶやま)村によると、生産者は減少しており、こちらも「希少な品種」という。また、かつては幹線道路沿いに、焼いて砂糖じょうゆを付けた地トウキビを売る農家がいたとか。投稿者の男性の記憶と一致する。50年ほど前、阿蘇山頂付近の路上で地トウキビを販売する森繁博さんの母(左)
「ばあちゃんが赤い服を着て若いふりして売っとった。つられて何度、車を降りたことか」。城本俊成村議(64)は懐かしむ。自らも地トウキビを作る数少ない農家。「だって忘れられないから。趣味の世界ですよ。最高にうまいし」。そして、こう続けた。 「時期や場所、食べ方と味からして、(投稿者が)当時食べたのは、間違いなく地トウキビでしょうね」◆求める人がいる限り、作り続けたい
地トウキビの栽培に熱心だった亡き父の思いを継ぐ森繁博さん=7月19日、熊本県阿蘇市
7月中旬、熊本県阿蘇市。森繁博さん(59)の農園では、収穫を間近に控えた地トウキビが風に揺れていた。やまなみハイウェイ沿いで経営する農産物直売所は、地トウキビを手軽に買える貴重な存在だ。 地トウキビは父・繁富さんの「遺産」でもある。栽培に熱心だった父は2年前の4月、有明海北部で小型飛行機が不時着した事故で犠牲になった。82歳だった。 父の思いを受け継ぐ繁博さんはこう話す。「昔があって、今がある。求める人がいる限り、地トウキビは作り続けたい」。繁博さんの言葉を投稿者の男性に伝えた。男性は「阿蘇に行きます」と即答した。 【関連記事】自治会からなぜ、入学祝いの案内状が? 名簿流出を心配した家族が提供元を調べたら<ニュースあなた発>【関連記事】校外学習のバスに事故や故障 重大事故歴のある会社が手配されてしまった背景は <ニュースあなた発>
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