東京・歌舞伎町の広場や路地裏の「トー横」に集まる未成年者らの対策のため、都が現地に開設した相談所でトラブルが頻発している。今月10日には施設内でひわいな行為をしたとして利用者2人が逮捕される事件も発生。カップラーメンの提供などにより「たまり場」となり、薬物乱用など犯罪にいざなう会話が飛び交う。専門家は「出入りする悪い大人の問題を甘くみていたのではないか」と指摘する。(原田遼)

◆都の相談所「きみまも@歌舞伎町」、出入り自由で軽食も提供

 「涼めて、ただでカップラーメンや飲み物がもらえる場所。相談したことはないし、大人も話しかけてこない。これからも逮捕者が出るだけでしょ」。11日夕方、相談所から出てきた、10代とみられる男性はぶっきらぼうに答えた。

歌舞伎町の「トー横」周辺を行き交う人たち

 都の相談所「きみまも@歌舞伎町」は5月の開設から2カ月で、12~38歳の延べ1584人が利用。これまで風俗店やホストクラブで働く若者に支援先を紹介したり、家出した14歳の少女を警察を通じて保護者に引き渡したりした。  「気軽に来てほしい」と、相談をしなくても出入りは自由。ソファのあるフリースペースではカップラーメンや菓子が無償提供され、スマートフォンの充電もできる。当初1日の利用者を10~15人と想定していたが、同時に50人超が訪れる日もあった。

◆気軽さが裏目? 悪用が目立つ事態に

 しかし、施設を悪用する例が後を絶たない。警視庁は10日、都迷惑防止条例違反(卑わいな言動)の疑いで、25歳と20歳の2人を逮捕。容疑者はそれぞれ7月、施設に来ていた女性の下腹部を触るなど、公共の場でみだらな行為をしたとされる。警視庁によると「時間つぶしに来た」などと話しているという。

「きみまも@歌舞伎町」で提供される軽食(都提供)

 都によると、ほかにも、デートして金銭を受け取る「パパ活」や、市販薬のオーバードーズ(過剰摂取)に誘うような会話が交わされ、大声を張り上げるなどのトラブルが発生。トイレでかみそりなどで手首を自ら傷つける「リストカット」によるとみられる出血の跡も確認された。

◆「悪意ある大人が近づけないよう対策を」

 昨年、歌舞伎町で「子ども食堂」を運営したボランティア団体代表の槙野悠人(ゆうと)さんは「子どもはすぐに自分の話をしない。気軽に利用できて、大人の目の届くところにいるだけでも良いこと」と軽食の提供などに賛同する。一方で「これまでの警備は甘かったのではないか。子どもたちには反社会勢力や半グレが近づいてくる。警察と連係を強め、悪意のある大人が出入りできないようにしてほしい」と求めた。

歌舞伎町の「トー横」周辺を行き交う人たち

 これまで都は「トー横」問題に対し、民間支援団体に補助金を出す間接的な対策にとどまっていた。槙野さんは「民間任せにすると、行政に実態や情報が十分に入らない。都が直接相談所を設置した意義は大きく、今後さらに子どもの保護施設や条例の整備などにつなげてほしい」と期待した。    ◇

◆都は利用者数を制限、若者の相談に十分乗れないジレンマも

 相次ぐトラブルを受け、都は9月から、相談所に1度に入れる人数を20人程度に制限している。利用者に名前や連絡先などの登録を求め、巡回する警備員や警察OBも増員した。常駐するスタッフは5〜6人前後で、都の担当者は「1度に50人もの利用者がいると、現状の人員態勢では目が行き届かない。一方で利用人数の制限により、相談に来た若者が支援からこぼれ落ちる可能性もある」と悩ましげに語った。

「きみまも@歌舞伎町」の施設内(都提供)

 相談所を巡っては昨年、有識者による都の青少年問題協議会から「トー横の実態解明が十分に行われておらず、より踏み込んで実態把握が必要」という答申を受け、設置が決まった。  相談所は新宿東宝ビル近くのシネシティ広場と大久保公園の間に立つ都健康プラザ「ハイジア」内にあり、都の委託を受けた社会福祉法人が運営。火曜日から土曜日まで午後3〜9時、社会福祉士らが相談に乗る。 

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