のと鉄道の「語り部列車」で、津波被害の写真を載せたパネルを乗客に見せる乗務員(16日)=代表撮影・共同

能登半島地震で被害を受けた石川県の第三セクター、のと鉄道は16日、被災の実態を乗客に話す「語り部列車」を初めて運行した。地震以前に運行していた観光列車の乗務員が自らの被災体験を交えながら、復旧状況など「能登の今」を伝える取り組みが始まった。

普通列車に増結した貸し切り車両で、穴水―和倉温泉間を走る35分間、愛知県からのツアー客を前に、倒壊家屋や津波被害などの写真を載せたパネルも使って被災状況を解説。のと鉄道の被害も説明した。

「駅に停車していた列車内で大きな揺れに見舞われた」。語り部を務める宮下左文さん(67)は元日、観光列車に乗務中だった。

津波から逃れるため、近くの高台に乗客を誘導。「ラジオの情報を聞き、ただならぬ状況だと認識した」。乗客を帰す段取りを付け、翌日夜に自宅に戻ったが、家は全壊していた。

車窓から見える住宅の黒瓦屋根は、宮下さんが「自慢の風景」と紹介するが、ブルーシートが張られたままで「どこもかしこもこの状態。解体も足踏みしている」。

道路や農地の被害にも触れ「元に戻るにはまだかかるが、能登を忘れないでほしい。また来てくだいね、まっとんね(また来てくださいね、待っているね)」と方言を交え、涙ながらに訴えた。

愛知県豊橋市から訪れた男性(68)は「倒壊家屋がそのまま残っている状況を見て、もっと早く解体できないのかと感じた。今後もできる範囲で被災地に協力したい」と感想を話した。

運行に先立ち、宮下さんら語り部3人は7月、岩手県の三陸鉄道を訪れ、東日本大震災の教訓を伝える「震災学習列車」のノウハウを学んだ。

宮下さんは「三陸は復興が進んでいるが、能登は被災したままの状態も広がっている。目の前の能登を、これからも伝えていきたい」と話す。〔共同〕

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