スポーツ界のパワー・ハラスメント、いわゆる「スポハラ」が後を絶たない。今月、高校野球部の監督だった教諭が体罰などで懲戒処分を受け、大学陸上部の名誉総監督の不適切な言動が書かれた文書も確認された。なぜ不適切な指導はなくならないのか。どうするべきなのか。かつて体罰で辞任した元教諭や識者に話を聞いた。(山田雄之)

◆相次ぐ不適切指導、相談は年々増加の一途

 「指導の範囲だと思っていた」。今夏含め甲子園に4度出場の三重県立菰野高野球部前監督の男性教諭(62)は、6日に減給1カ月(10分の1)の懲戒処分とした県教育委員会の聴取にこんな趣旨の説明をした。教諭は至近距離でのノックで部員にけがをさせたり、「殴らせろ」「ばか野郎」と発言するなどした。  順天堂大も6日、陸上部を東京箱根間往復大学駅伝で4連覇含む9度の総合優勝に導いた「名誉総監督」の沢木啓祐氏(80)の退任を発表。沢木氏の不適切な言動が記された匿名文書が学内で複数確認されたという。

学校の部活動(本文の学校とは関係ありません)

 指導などの不適切行為を巡り、日本スポーツ協会の専用窓口への相談は、コロナ禍を除いて増加の一途だ。昨年度は前年度比112件増の485件。うち「暴言」が39%と最も多く、「パワハラ」が22%、「暴力」が10%で、被害者の内訳は小学生が最多42%、中学生12%、高校生13%と子どもの場合が目立つ。  バスケットボール部顧問からの体罰を苦に、大阪市立(現・大阪府立)桜宮高校の男子生徒が自殺し、社会問題化して10年以上たつ。だが依然として不適切な指導はなくならない。どうしてだろうか。

◆かつては主従関係だった生徒、今は対等に

 「勝つことを意識し、自分がこれまで受けた指導が最善なんだと正当化していた。怒鳴って命令して、生徒と主従関係に陥っていた。指導力が足りていなかった」。体罰で2015年、流通経済大付属柏高(千葉県)のラグビー部監督を辞任し、教諭も辞めた松井英幸氏(63)は「こちら特報部」に当時を語った。

「指導には信頼関係の構築が大切」と話す松井英幸さん=千葉県松戸市で

 同校を全国大会(花園)に21年連続23回出場の強豪に育て、高校日本代表監督も務めた。だが2014年冬の練習で「気の抜けていた」部員の胸を小突いた。けがはなかったが、学校に通報があり「暴力と思われるなら間違いない」と認めた。  それから「現場指導は一切しない」との罰を自身に科した松井氏は、すべての行動は自らの選択から生まれると考える「選択理論心理学」と出合った。現在、スポーツ指導の目的を「自ら考え、判断し、行動できる人を育てること」と捉え、指導者と選手は「意見を交わしやすい対等な関係であるべきだ」と考える。  数年前から講演活動を始め、自身の失敗談を明かして「俺みたいになるな」と語り、選手に前向きな言葉で自信をつけさせる「ペップトーク」などの指導方法を提案している。

◆時代も選手の考え方も変化し続けている

学生や社会人向けにスポーツ指導者のコーチングのセミナーを担当する土屋裕睦教授=大阪体育大提供

 スポハラの根絶を目指し、学生だけでなく社会人向けにもコーチングのセミナーを担当している大阪体育大の土屋裕睦教授(スポーツ心理学)は「選手や家族、関係する皆の幸せにつながる指導をできているか。根幹となる理念や哲学を大切にしてほしい」と伝えている。「時代も選手の考え方も変化し続けており、指導者も常に学び続けることが求められている」とも強調する。  現状について「熱心な指導者が現場には多いが、自身の指導が批判されたり、信じてきた価値観が揺らいだりすることを恐れる傾向にある。コーチングを考える機会は十分に行き届いていない」と指摘し、「指導者たちが悩みを共有したり、相談したりできる場所づくりも必要だ」と考える。 

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