こども家庭庁が公表した令和4年度の虐待によって死亡した子どもの事例検証によりますと、虐待を受けて死亡した子どもは全国で56人で、前の年度より6人増えました。
また、親による心中によって死亡した子どもは16人に上りました。
心中以外で死亡した56人の原因となった虐待の類型は
▽育児を放棄する「ネグレクト」が24人、
▽「身体的虐待」が17人、
▽「心理的虐待」が1人、
▽「不明」が14人となっています。
また年齢をみると、0歳から15歳までで、
▽0歳が25人、
▽2歳が9人、
▽1歳と4歳がそれぞれ5人、
▽3歳と8歳がそれぞれ3人、
▽7歳が2人、
▽5歳、6歳、13歳、15歳がそれぞれ1人となっています。
このうち0歳で死亡した25人のうち、生後1か月未満の新生児は15人に上り、13人は生後直後に遺棄されて死亡しました。
こども家庭庁によりますと、予期せぬ妊娠などで孤立した状況で出産し、周囲に相談することができないまま遺棄につながったケースが多いということです。
若年妊娠や困窮など生活に困難を抱え、出産前からのサポートが特に必要とされる妊婦は「特定妊婦」として自治体が登録し支援を強化していますが、こども家庭庁は今年度、より相談しやすい体制作りや、居場所のない妊産婦への一時的な住まいや食事の提供、それに養育サポートのための関係機関との連携を強化するとしています。
「特定妊婦」支援の現場は
生活への不安を抱えたり孤立したりした妊産婦を支援している福岡市の母子生活支援施設では、4年前から妊娠や出産の悩みなどへの相談対応や、居場所がない妊産婦への住まいや食事の提供などを行っています。
社会福祉士や助産師、保育士の資格をもつ職員が電話やSNS、メールで24時間応じる相談窓口には、令和3年度が430件、令和4年度が554件、昨年度が428件の相談が寄せられました。
内容は、「親にも言えない。彼に逃げられた」などと、周囲に相談できる人がいない状況を訴えるものや、「妊婦健診と出産費用がない」、「産んでも住むところもなければ、仕事も金もない」など困窮を訴える声が寄せられているということです。
中には、妊娠を誰にも相談できないまま自宅の風呂場で1人で出産したという20代の女性から、出産直後にSNSで相談が寄せられ、電話で赤ちゃんの体温を保つための処置などを伝えながら救急車を呼ぶよう指示したケースもあったということです。
施設では、周囲に頼れる人がいない妊婦などが入居できる専用の部屋を用意して食事の提供を行っているほか、医療機関の受診の同行や、必要な行政手続きにつなぐなど、母子の生活基盤に必要な支援を行います。
しかし、これまでに入居したのは4年間でおよそ20人程度にとどまり、相談を受けた中で実際に支援につながったのは一部だということで、どう、支援につなげるかが課題だとしています。
「産前・産後母子支援センターこももティエ」の瀬里徳子センター長は、「支援を求める人と私たちの支援の内容がうまくマッチするとは限らず、どのように支援を届けていくのかというところが大きな課題だ。関係機関と連携をとり、取り組みについて理解してもらいながら、自分たちにできることを模索していきたい」と話していました。
専門家 “匿名での相談など社会で検討する時期に”
児童虐待の問題に詳しい関西大学の山縣文治名誉教授は、出産当日に遺棄される「0日死」を含めた、“新生児遺棄”をめぐる課題について、「妊娠の届け出をしていない人も多く、行政側からは“見えない”というのがいちばん大きな課題で、産む女性の側も、周りに知られたくないという状況から、支援にもつながりにくくなっている。少しでもそうした女性に支援が届くようにするためには、単一の取り組みの強化だけでは難しく、女性がアプローチしやすいやり方を工夫していく必要がある」と指摘しています。
そのうえで、生活に困難な事情を抱える「特定妊婦」や子どもを社会で支えていくために必要な取り組みとして、「新生児遺棄は女性側の責任になりがちだが、男性側の問題でもある。事情を抱えた人のために、もっと匿名での相談や匿名での出産費用の助成など、名前を言わなくても支援を受けられる仕組みが必要かどうかなど、社会で検討する時期にきていると思う」と話していました。
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